アスベスト含有モルタルのリスクを正しく見極めるために|調査・除去・法対応の要点

左官ごてで壁を塗っている建設作業員

モルタルは現在も幅広い用途で使用されている、一般的な建築材料の1つです。しかし、かつては性能向上の目的でアスベストが添加されていた例もあり、古い建物では注意が必要です。

アスベストを含むモルタルは、健康リスクや法令上の観点から、解体・改修工事において適切な飛散対策が欠かせません。事業者や関係者には、確実な対応が求められます。

本記事では、アスベスト含有モルタルの基礎知識をはじめ、調査・除去の流れや費用の目安までを体系的に解説します。リスクを正しく見極め、安全かつ効率的な工事を行うための参考資料としてご活用ください。

【本記事の要約】
・モルタルには過去、性能向上の目的でアスベストが混入されていた事例がある
・外見や部位だけでは含有の判断ができず、専門業者による調査と分析が不可欠である
・含有が確認された場合、除去または封じ込めなどの適切な工事対応が必要となる

身近な建材として知られるモルタルとは

左官職人がセメントプラスターを丁寧に混ぜる

モルタルは、セメント・砂・水などを練り混ぜてつくられる建築用材料です。1980年代までは主に外壁材としての需要が高く、多くの建築物で使用されてきました。注意すべきは、モルタル自体にアスベストは使用されていませんが、当時は混和剤にアスベストが使用されていた点です。

現在でも古い建物に使用されているモルタルにはアスベストが含まれている可能性がありますが、外見上の判断は難しく、種類と用途を理解したうえで慎重な確認が求められます。

モルタルの用途

モルタルは、壁や床の下地調整、外壁や内壁の仕上げ、タイルの固定、防水層の下地など、建物のさまざまな部位に使用されています。施工性が高く、複雑な形状にも対応できるため、職人の手作業による精緻な仕上げが可能です。乾燥後には一定の強度や耐水性を持ち、建物の耐久性向上にもつながります。

また、配合を変えることで性質を調整できる柔軟性もあり、用途に応じた施工がしやすい点も利点です。補修や改修工事にも適しており、現場の状況に応じて多様に活用されています。

アスベストが使用された理由

非常に細かく均一な繊維状の鉱物であるアスベストは、モルタルに混ぜることで、ひび割れの抑制や曲げ強度の向上、耐火性・耐久性の強化が可能です。

特に、外壁仕上げ材や防水モルタル、耐火被覆材などにおいては、高温や風雨にさらされる条件下でも劣化しにくく、施工性の高さと耐久性を両立できたため、当時は広く使用されました。

アスベスト含有の可能性があるモルタルの代表例

アスベストを含むモルタルは、非常に幅広い用途で使用されていたのが大きな特徴です。ここでは、かつてアスベストが含まれていた代表的なモルタルについて、用途や特徴をもとに分類・整理します。

【左官用モルタル(混和材)】
内外壁の仕上げや下地として使用され、表面を平滑に整える目的で広く普及していました。

【防水モルタル】
屋上や浴室などに施工される防水層の下地材で、特に屋上防水層直下に含有事例があります。

【耐火モルタル】
ボイラー室、配管、厨房まわりなど高温部位での断熱・耐火目的で使用されており、濃灰色〜茶色の重厚な質感が特徴です。

【下地調整材(セメント系フィラー、樹脂系フィラー)】

コンクリート下地の凹凸や欠損を平滑に補修する目的で使用されており、1970年代から2000年代初頭にかけてアスベスト含有製品が製造されていました。

【木造モルタル壁】

主に木造住宅の外壁に使用され、防火性や耐震性の向上を目的にアスベストが混入されていました。風雨による劣化で飛散リスクが高まる場合があります。

見た目や部位だけで判断できない理由

アスベストを含むモルタルは、多くの場合、塗装やタイル、クロスなどの仕上げ材に覆われているため、外観だけでは含有の有無を確認することができません。

さらに、施工部位が同じであっても、建物ごとに使用された建材は異なる場合があり、「屋上防水下地だから含まれている」「内壁だから安全」といった部位による一律の判断は適切ではありません。

アスベスト含有の有無をどう判断するか

建築物の病理と疾病、特にシックビルディング症候群に関する調査研究

アスベストの含有有無は、モルタルの種類や使用部位だけでは判断できません。建築年代や設計図から一定の推測は可能ですが、最終的な判断には専門業社による調査・分析が必要不可欠です。含有が確認された場合、工事方法や廃棄物処理の扱いが大きく変わるため、確実な判断が求められます。

設計図書や施工記録による初期判断のポイント

調査の第一歩として、建物の設計図書や施工記録を確認することで、使用建材の種類やアスベストの使用有無に関する手がかりを得られる場合があります。なかには「石綿入りモルタル」などと明記されているケースもありますが、設計段階と実際の施工内容が異なることも少なくありません。

また、改修や補修を経て材料が入れ替わっている可能性もあるため、これらの書類情報はあくまで参考資料として位置づけ、現地での確認と併用することが重要です。

調査から分析までの基本フロー

含有の有無を確実に判断するためには、現場での調査から試料採取、そして分析までの一連の工程が必要です。

まずは対象建材の状態や施工範囲を確認し、必要に応じて飛散防止措置を講じながらサンプルを採取します。定性分析により含有率が0.1%を超えるアスベストが確認できた場合は、廃棄方法や工事対応が厳格に規制されるため、初期段階での確認が極めて重要です。

調査業務は有資格者へ委託を

アスベストの調査は、法令に基づき所定の資格を持つ専門技術者によって実施される必要があります。建築物であれば「建築物石綿含有建材調査者」、工作物の場合は「工作物石綿事前調査者」などの有資格者が対象です。

調査業務を委託する際には、資格の保有状況だけでなく、調査報告書の内容が法的要件を満たしているか、分析を担当する機関が公的な登録を受けているかなども確認しておくと安心です。

アスベスト含有モルタルはレベル3建材

鉄筋コンクリート壁にヘアークラック

モルタルにアスベストが含まれている場合、その多くは飛散性が低い「レベル3建材」に分類されます。しかし、現場の施工条件や劣化の程度によっては、実質的に飛散リスクが高まるケースもあるため注意が必要です。

法令上の区分と現場での実務対応には乖離が生じることもあり、正確な理解と現場判断が欠かせません。

モルタルの「レベル3」分類

乾燥状態であっても繊維が空気中に飛びにくいという物理的特性に基づき、アスベストを含有するモルタルは「レベル3建材」に区分されています。

関連法令と実務上の義務

アスベスト含有モルタルの除去や取り扱いに関わる法令は、大気汚染防止法、石綿障害予防規則(石綿則)、および廃棄物処理法の3つです。これらの法令により、調査結果の届出、作業計画書の作成・掲示、安全対策の実施、廃棄物の適正処理などが義務付けられています。

法令違反があった場合は、行政処分や罰則に加え、企業としての信頼失墜や訴訟リスクにもつながりかねません。現場対応に加え、制度の正確な理解と事前の体制整備が求められます。

アスベスト含有モルタルへの対策

ビルの大規模修繕では、養生、足場、耐震補強が主な作業イメージ

含有率0.1%以上のアスベストが確認された場合、原則として除去工事が求められます。ただし、現場の構造や作業環境によっては、封じ込めや囲い込みといった代替措置も選択肢となることを留意しておきましょう。

工法の選定にあたっては、法令遵守に加え、安全性・維持管理の観点からも慎重な判断が必要です。

除去作業における基本手順と留意点

アスベスト含有モルタルの除去作業は、アスベスト飛散のリスクを伴うため、極めて厳重な管理のもとで実施されます。基本手順と留意点は以下の通りです。

①作業区域の隔離と養生
作業場所を完全に隔離し、アスベストの外部への飛散を防ぎます。

②湿潤化の徹底
モルタルを湿らせることで、粉じんの飛散を抑制します。

③低粉じん化措置
手工具を基本とし、電動工具を使用する際は集じん装置を併用するなど、粉じんの発生を最小限に抑えます。

④廃材の密封とラベル化
除去したモルタルは、二重の袋などで厳重に密封し、アスベスト含有を示すラベルを貼付します。

⑤作業員の保護具着用
防じんマスク(P3レベル以上)や保護衣など、適切な保護具の着用が義務付けられています。

封じ込めや囲い込みの適用場面

構造上の制約や工事予算、工期の都合などにより、アスベスト含有モルタルの除去が現実的でない場合には、封じ込めや囲い込みといった措置が選択されることがあります。封じ込めは、アスベストを含む部位の上から固定剤などで被覆し、飛散を防ぐ方法で、囲い込みは建材ごと物理的に覆う施工法です。

これらはいずれも仮設的対応ではなく、長期的な維持管理と定期的な点検を前提とした措置であり、設計段階から明確な計画立案が求められます。

費用・業者選定・補助制度のポイント

改修中のアパートで、2人のエンジニアと建設作業員が現場監督に挨拶している。

対策工事では、調査、除去、そして廃棄という各段階で相応のコストが発生します。特に、処分方法によってコストが大きく変動するため、事前の計画が重要です。また、信頼できる業者の選定や、各自治体が設ける補助制度を活用することで、安全性と費用の両立を図ることも可能となります。

費用の内訳と相場感

工事にかかる費用は、概ね「事前調査費」「除去作業費」「廃棄処理費」の3つに大別されます。レベル3建材であっても、面積や構造、施工条件によって費用は変動するため、工事内容に応じて事前に見積もりをとり、適正な価格かを確認するようにしましょう。

【事前調査費】 通常、戸建住宅や小規模な建物であれば、調査費用はおおよそ5万円〜30万円程度が相場です。一方で、中規模以上の建物や施設になると、調査対象が広くなるため数十万円~数百万円の規模の費用がかかることも珍しくありません。

【除去工事費】 養生、湿潤化、負圧管理、除去作業など、アスベスト飛散防止対策を施しながらモルタルを除去する費用です。作業面積や工法、周辺環境によって大きく変動しますが、レベル3建材の除去費用は1㎡あたり3,000円程度とされています。

【廃棄物処理費】 除去した建材を特別管理産業廃棄物として適切に収集運搬・処分する費用です。一般廃棄物と比較して処分単価が非常に高く、含有率0.1%超の「石綿含有廃棄物」と判断された場合、費用が大幅に増加します。

信頼できる業者選定のポイント

適切な工事を行うためには、アスベスト関連の資格保有者が在籍し、調査から廃棄まで一貫対応できる業者を選ぶことが重要です。見積の明細が透明で、過去の施工実績が確認できるかも大きな判断材料となります。

また、補助制度の利用には事前申請が必要で、調査報告書や写真、見積書の提出が求められることが一般的です。制度内容は自治体や年度によって異なるため、早い段階での情報収集と業者との連携が欠かせません。

「ただのモルタル」と見なさない慎重な対応を

アスベスト含有モルタルは、かつて左官仕上げ材や防水下地、耐火材などとして建物の多様な部位に使用されてきた背景があります。外見上の違いや施工部位だけで安全性を判断することは難しく、誤った認識のまま作業を進めれば、思わぬ健康被害や法的リスクにつながるおそれがあることを忘れてはなりません。

アスベスト対策は、現場の安全性と社会的責任を両立させるための基本です。専門的な知見を持つ調査者や施工業者と連携しながら、法令を遵守した確実な対応を心がけましょう。

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監修者:三井伸悟

1980年静岡県浜松市生まれ。2003年に東海大学海洋学部水産資源開発学科を卒業後、2004年に日本総研株式会社へ入社し、分析・環境分野でのキャリアをスタート。2011年には同社の原子力災害対策本部長に就任。その後、世界最大の分析会社グループEurofins傘下の日本法人にて要職を歴任。2017年にユーロフィン日本総研株式会社、2018年にはEurofins Food & Product Testingの代表取締役社長に就任。さらに、埼玉環境サービス株式会社取締役、ユーロフィン日本環境株式会社の東日本環境事業及び環境ラボ事業の部長も経験。2021年にアルフレッド株式会社を創業し、代表を務める。特定建築物石綿含有建材調査者、環境計量士(濃度)、作業環境測定士(第一種)、公害防止管理者(水質一種)の資格を保有し、20年以上にわたる環境・分析分野での豊富な実務経験と専門知識を活かし、持続可能な環境構築に貢献。

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