“見えない危険”アスベスト接着剤|改修・解体時の安全対策と処理方法を徹底解説

床材や壁材の裏側に塗布される接着剤は、施工後は完全に隠れてしまうため、現場で最も見落とされやすいアスベスト(石綿)建材の一つです。特に2005年頃まで流通していた製品には、性能向上のためアスベストが混入していた可能性があり、改修・解体時に粉じん化すると高い飛散リスクを伴います。
本記事では、接着剤に潜むアスベストの背景から、初期調査の要点、安全な除去方法、適切な廃棄手順までを、実務目線で分かりやすく解説するので、ぜひ施工の際の参考にしてください。
【本記事の要約】
・接着剤は見た目だけではアスベスト含有の有無を判別できず、築年数だけで安全性を判断するのは危険
・外劣化や乾式作業で粉じん化しやすく、非飛散性建材でも高リスクのため事前調査が必須
・除去は湿潤化と手作業が基本。機械使用時は集じん・養生を徹底し、廃棄も厳重管理
- 1. 接着剤の基礎知識と高含有リスクの背景
- 1.1. 接着剤にアスベストが使われた理由
- 1.2. アスベスト含有接着剤の使用箇所
- 1.3. 流通年代の特殊性に注意!
- 1.4. アスベストが使用されていた接着剤
- 2. 接着剤特有の飛散リスクと初期調査
- 2.1. 接着剤が持つ「レベル3を超えた」飛散リスク
- 2.1.1. 【粉じん化しやすい特性】
- 2.1.2. 【機械的作業の危険性】
- 2.1.3. 【経年劣化によるリスク】
- 2.2. 事前調査・分析時の実務的チェックポイント
- 2.2.1. 【図面調査の徹底】
- 2.2.2. 【目視による見分け方】
- 2.2.3. 【分析検体の採取方法】
- 3. 解体・改修時の飛散防止対策
- 3.1. 飛散防止の基本原則
- 3.2. 機械的作業を行う場合の具体的な対策
- 3.3. ブレーカー等使用時の追加対策
- 3.4. 作業計画と安全管理
- 3.5. 適切な廃棄物処理
- 4. 見えない接着層のリスクは確かな調査・分析で回避(まとめ)
接着剤の基礎知識と高含有リスクの背景

建材用接着剤は、床材や壁材の裏側など目に見えない部分に塗布されるため、現場では存在自体が意識しづらい素材です。かつてはアスベストの強度・耐熱性・絶縁性を狙って配合されることも多く、特に床や壁の下地に高頻度で使用されました。
一度施工されると見た目では判別できず、改修時に初めて露出することも少なくありません。接着剤は「そこにある」と気づかないまま作業されがちだからこそ、事前調査での確認が重要になります。
接着剤にアスベストが使われた理由
アスベストが接着剤に混ぜられた主な理由は、性能向上とコストの両立です。繊維状のアスベストは補強材として優秀で、接着剤の強度や耐久性を高めるうえ、耐火・耐熱性の付与にも効果があります。
さらに安価で安定して供給できたため、メーカーにとっては採用しやすい原料でした。特に耐火構造物や防水・断熱用途の接着剤では、このメリットが評価され、長期間にわたり広く使用されてきた経緯があります。
アスベスト含有接着剤の使用箇所
代表的な使用箇所は、ビニル床タイル(Pタイル)や長尺シート、ソフト巾木の施工部です。また、壁や天井のボード類、断熱材の固定にも用いられています。
これらは一般住宅から学校、病院、オフィスビル、公共施設に至るまで、あらゆる種類の建築物に採用されてきました。特定の用途や建物に限らず広範囲に存在する可能性があるため、内装改修等の際はよく注意して確認する必要があります。
流通年代の特殊性に注意!
アスベストを含む一部床材などは1990年代までに製造が終わりましたが、接着剤自体は2005年頃まで流通していました。このため、築年数だけを見ると安全に思える建物でも、下地の接着剤にアスベストが含まれている可能性があります。
部分改修が繰り返された物件では、同じフロア内でも年代の異なる接着剤が混在しているケースがある点も忘れてはいけません。築年数だけで判断せず、施工時期や使用材料をセットで確認することが重要です。
アスベストが使用されていた接着剤
厚生労働省の「接着剤原料への石綿含有可能性調査結果(第2回報告)」や各メーカーの公式HPで、含有製品情報が公開されています。しかし、全ての製品が網羅されているわけではなく、旭化成建材が2025年に過去の接着剤への含有を公表するなど、新たな発覚事例も続いています。
【接着剤メーカーの製品名等】
| 企業名 | 製品名 | 用途 |
| セメダイン(株) | 190 1kg容器 | 建築内装用(床タイル用、金属・コンクリート用) |
| 190 3kg容器 | ||
| 190 18kg容器 | ||
| 195 170ml容器 | ||
| 195 1kg容器 | ||
| 195 3kg容器 | ||
| コンクリメントA 1kg容器 | ||
| コンクリメントA 3kg容器 | ||
| コンクリメントA 4kg容器 | ||
| コンクリメントA 20kg容器 | ||
| ホモミヤフィックス | ||
| SKボンド | ||
| 199 | 工業用(断熱材接着用) | |
| コニシ(株) | ボンドコンクリート用 60g箱入(ロットNo.050610A) | 家庭用(コンクリート接着用) |
| ボンドコンクリート用 60gブリスターパック(ロットNo.050715B) | ||
| ボンドコンクリート用 25g箱入(ロットNo.050328A) | ||
| ボンドコンクリート用 合計 | ||
| E10 | 工業用(研磨用パッドの研磨器への接着用) | |
| (株)スリーボンド | Three Bond 2239F | 工業用(電機部品、モーター等) |
| Three Bond 2239G | ||
| Three Bond 2249C | ||
| Three Bond 2286H | ||
| Three Bond 2286K | ||
| レジナス化成(株) | F-109 | 土木用(橋脚の鉄板接 着、コンクリート欠損部充てん等) |
| F-192(夏) | ||
| F-192(冬) | ||
| F-195 | ||
| F-196 | ||
| スリーロンジーパテ(冬) | ||
| スリーロンジーパテ(夏) | ||
| ガンツ化成(株) | VNA-615改 | 建築内装用(床用、巾木用、木レンガ用) |
| VNA-617改 | ||
| NAF-12 | ||
| NAF-310 | ||
| 旭化成建材(株) | 材「ヘーベルライト (耐火認定番号 Wh1032)」に使用された耐火接着剤 「ヘーベルボンド」 | 鉄網入り軽量気泡コンクリート板 (50mm) 外壁(非耐力壁) |
| 「ヘーベルライトデザインパネル(耐火認定番号 Wh1110」に使用された耐火接着剤 「ライトボンド」 | メタルラス入りALC板 (50mm) 張り外壁(非耐力) |
接着剤特有の飛散リスクと初期調査

改修・解体工事に着手する前には、接着剤層に特化した徹底的な事前調査と分析が不可欠です。
接着剤が持つ「レベル3を超えた」飛散リスク
アスベストを含む接着剤は、表面に露出していないから安全というわけではありません。硬化・劣化が進んだ接着層は、破壊や削り取りの際に細かい粉じんとなり、短時間で高濃度のアスベストを放出する可能性があります。湿潤化が不十分な状態で電動工具を用いれば、実質的にはもあるので注意しましょう。
【粉じん化しやすい特性】
セメント質や無機系の接着剤は、経年により硬く脆い状態になりやすく、衝撃や振動で簡単に粉末化します。この粉じんは粒子が細かく、空気中に舞い上がると作業者の呼吸域に入り込みやすい点が問題です。現場では「接着層は粉になりやすい」という前提で、作業方法を選定する必要があります。
【機械的作業の危険性】
ディスクサンダーやブレーカーなどの電動工具は、作業効率が高い一方で、接着層を一気に破砕し、大量の粉じんを発生させます。集じん機を併用しても、工具先端から飛び出す瞬間の粉じんを完全に捕捉することは困難です。そのため、やむを得ず機械を使う場合でも、湿潤化や局所的な囲い込みを組み合わせ、作業範囲を限定することが不可欠です。
【経年劣化によるリスク】
長年使用された建物では、接着剤が湿気や温度変化の影響を受け、粘着力を失って脆くなっていることが多くあります。このような状態の接着層は、仕上材をめくった瞬間にボロボロと崩れ落ち、予想以上の量の粉じんを発生させる原因になり得るため要注意です。
特に学校や公共施設など、築年数が古い建物では劣化が進んでいるケースが少なくありません。調査段階で劣化状況を確認することも必要です。
事前調査・分析時の実務的チェックポイント
正確な調査には、設計図書や施工記録の確認に加え、現地での目視確認と検体採取が必須です。特に接着剤は層が薄く、現場での目視判別が困難なため、信頼できる機関による分析こそが確実な手段といえます。
【図面調査の徹底】
設計図書や特記仕様書、過去の改修工事の記録から、使用された接着剤のメーカー名や商品名を特定します。「耐火」「断熱」といった記載がある場合は特に注意が必要です。
ただし、図面が現況と異なる場合や、現場判断で材料が変更されているケースも多いため、書面情報のみで「含有なし」と断定せず、必ず現地調査と照合するプロセスを経て判断しましょう。
【目視による見分け方】
現場では、剥がれた床材の裏面や下地に残る接着剤の色や状態を確認します。一般的に、暗褐色の接着剤はアスベスト含有の可能性が高いとされていますが、外観の色だけで非含有を確実に判断することは不可能です。
色味にかかわらず、古い時代の施工であれば分析機関によって判定をすることが確実です。
【分析検体の採取方法】
接着剤のみを掻き取ろうとすると量が不足したり、下地の成分が混ざったりして正確な分析ができません。表面材、接着剤層、下地(モルタル等)を含む約10cm角程度のコア抜き、または切り出しを行います。採取時は、飛散防止策はもちろん、サンプリングの精度が、そのまま分析結果の信頼性につながる点を意識しておくことが大切です。
解体・改修時の飛散防止対策

接着剤除去における安全対策の基本は、粉じん発生を元から断つ「湿潤化」と「手作業(ケレン)」です。しかし、強固に固着している場合など、発じんが避けられない状況では、隔離養生や高性能集じん機の使用を検討する場合があります。
飛散防止の基本原則
アスベスト除去の鉄則は「湿潤化」です。薬液や水で接着剤層を常に湿らせた状態にし、スクレーパー等を用いて手作業で剥離します。乾いた状態での破砕は厳禁です。
また、作業場所の床や壁をプラスチックシートで養生し、作業中であることを明示する掲示板を設置するなど、関係者以外の立ち入り制限と汚染拡大防止措置を講じることが求められます。
機械的作業を行う場合の具体的な対策
やむを得ずディスクサンダー等の電動工具を使用する場合は、必ずHEPAフィルター付きの集じん機を工具に直結し、発生する粉じんを発生源で吸引・捕集します。
さらに、作業箇所周辺を負圧集じん機付きのブースで局所的に囲い込むなど、飛散性が高い場合には安全作業を行うことが必要です。
ブレーカー等使用時の追加対策
解体工事でハツリ機(ブレーカー)を使用する際は、散水による常時湿潤化の徹底が大切です。作業員は、高濃度の粉じんに対応した呼吸用保護具(防じんマスク区分RL3等)と保護衣を着用し、身体への付着を防ぎます。
作業終了後は、HEPAフィルター付き真空掃除機で現場を入念に清掃し、残留粉じんによる二次飛散を防ぐことが重要です。
作業計画と安全管理
安全な除去作業には、事前の作業計画書が欠かせません。対象範囲、使用されている建材・接着剤の想定、採用する工法、必要な養生や保護具、緊急時の連絡体制などを具体的に整理し、作業開始前に関係者全員で確認します。
また、石綿障害予防規則や大気汚染防止法に基づき、必要な届出や記録も漏れなく実施することが求められます。
適切な廃棄物処理
除去した接着剤や接着層を含む建材は、非飛散性アスベスト廃棄物として扱い、他の廃材とは分けて管理します。袋は二重にし、破袋防止のため過度に詰め込みすぎないことがポイントです。
収集運搬および処分は、許可を受けた業者に委託し、産業廃棄物管理票(マニフェスト)で搬出から最終処分までの流れを追跡します。適切な処理は、法令遵守だけでなく、施主や地域社会に対する説明責任を果たすうえでも重要なプロセスです。
見えない接着層のリスクは確かな調査・分析で回避(まとめ)
接着剤は仕上材の裏側に隠れているため、外観や築年数だけではリスクの有無を判断できません。だからこそ、図面・現場・分析を組み合わせた事前調査と、それに基づく慎重な作業計画が重要になります。
適切な工法と廃棄管理を徹底すれば、アスベスト飛散や法的トラブルは大きく減らすことができます。常に「見えない層ほど疑って確認する」という意識を持ち、現場の安全と事業者としての信頼を同時に守ることを心掛けましょう。
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1980年静岡県浜松市生まれ。2003年に東海大学海洋学部水産資源開発学科を卒業後、2004年に日本総研株式会社へ入社し、分析・環境分野でのキャリアをスタート。2011年には同社の原子力災害対策本部長に就任。その後、世界最大の分析会社グループEurofins傘下の日本法人にて要職を歴任。2017年にユーロフィン日本総研株式会社、2018年にはEurofins Food & Product Testingの代表取締役社長に就任。さらに、埼玉環境サービス株式会社取締役、ユーロフィン日本環境株式会社の東日本環境事業及び環境ラボ事業の部長も経験。2021年にアルフレッド株式会社を創業し、代表を務める。特定建築物石綿含有建材調査者、環境計量士(濃度)、作業環境測定士(第一種)、公害防止管理者(水質一種)の資格を保有し、20年以上にわたる環境・分析分野での豊富な実務経験と専門知識を活かし、持続可能な環境構築に貢献。
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