マンション工事で必須のアスベスト対策|解体・改修時のリスクと対応ポイント

建物内マンションのリフォーム状況

マンションの解体や改修工事では、築年数によってアスベスト(石綿)を含む建材が残存している可能性が高く、事前調査を怠ると粉じん飛散による健康被害や法令違反に繋がります。特にマンションは共用部と専有部が混在しており、責任主体や調査範囲が複雑化しやすいのが特徴です。

本記事では、マンション工事におけるアスベストの使用箇所や調査方法、法令対応、補助金制度、管理組合や居住者との連携ポイントまでを体系的に解説し、事業者が押さえておくべき実務上の要点を整理します。

【本記事の要約】
・木造や軽量鉄骨造のアパートといった集合住宅でもアスベストは使用されてきた
・共用部と専有部で責任主体が異なり、2つの空間を分けたアスベスト対策が重要
・マンションでのアスベスト対策は居住者の生活環境に配慮する必要がある
・戸建住宅よりも関係者が多いため、より誠実な対応と確かな状況共有が求められる

マンションにおけるアスベスト問題

マンションの新築工事における通路

マンションでは、建築時期によっては壁や天井、外壁材や床材など多岐にわたりアスベストが使用されてきました。特に高度経済成長期から2006年の全面禁止までの建築物では、そのリスクが残存している可能性があります。

戸建住宅と違い、マンションは多数の住民が暮らし、共用部と専有部が混在しているため、調査や対応には複雑な調整が必要です。事業者としては、施工対象だけでなく、管理組合や所有者の責任分担を踏まえた工事計画が求められます。

アスベスト含有建材が使用された背景

アスベストは「奇跡の鉱物」とも呼ばれ、非常に優れた特性を持っています。高い耐熱性や断熱性、強度、そして化学物質への耐久性などから、防火や防音を目的とした吹き付け材、保温材、スレートボード、ビニール床タイルなど、様々な建材に広く使われました。

その利便性と低コストから、当時は安全性に関する認識が低く、多くのマンションや建物で広く採用されましたが、その有害性が明らかになると次第に規制が強化され、最終的に2006年に全面使用が禁止されています。事業者にとっては、建築年代による使用可能性を把握し、解体・改修時の事前調査を怠らないことが不可欠です。

アパートも同様に注意が必要

アスベストの使用はマンションに限らず、木造や軽量鉄骨造のアパートでも広く確認されています。外壁材のスレート板や内装ボード、屋根材、浴室の断熱材など、規模にかかわらず採用例が存在するため、「小規模だから安全」「木造だから大丈夫」という判断は危険です。むしろアパートは築年数が古く管理が行き届いていないケースもあり、劣化により飛散リスクが高まっている場合もあります。

マンションと同様に、工事前には設計図書や過去の調査履歴を確認し、必要に応じて有資格者による調査を実施することが求められることを留意しましょう。

共用部と専有部の違いと責任主体

マンションのアスベスト対策において、戸建住宅と大きく異なるのが「共用部」と「専有部」の責任の所在です。共用部とは、エントランスや廊下、階段、外壁など、居住者全員が使用する部分を指します。一方、専有部とは、各住戸の内部空間を指し、原則的にその所有者(区分所有者)が管理責任を持ちます。アスベスト対策を進める際には、この2つの空間を分けて考えることが重要であり、工事の計画段階から責任の所在を明確にすることが大切です。

共用部は管理組合が主体

共用部におけるアスベスト調査や除去は、管理組合が主体となって進めるのが一般的です。調査には「一般建築物石綿含有建材調査者」や「特定建築物石綿含有建材調査者」といった有資格者が必要であり、資格のない調査は法令違反となります。費用は修繕積立金や管理費から捻出されるケースが多く、大規模修繕工事の計画と併せて実施されるのが通例です。

専有部は各区分所有者の責任

専有部は原則として各区分所有者が責任を持って調査・工事を実施し、リフォームや水回りの更新工事などで壁や床を解体する際、アスベスト含有の有無を確認する義務が発生します。費用も所有者負担が基本ですが、工事が共用部に影響を及ぼす場合は、管理組合への報告や調整が必要です。

リフォーム申請時にアスベスト調査の有無を確認し、必要に応じて調査証明書を提出する仕組みを設けると、後のトラブル防止につながります。

アスベスト使用箇所の特定と調査

ローアングルからのヘルメットのビジネスマンの打ち合わせ

マンションにおけるアスベスト事前調査は、その複雑さから専門知識と経験が不可欠です。共用部と専有部、建物外部など、アスベストが使用されている可能性のある箇所は多岐にわたります。そのため、解体・改修工事の計画段階で、まずは図面調査や過去の記録を通じて、使用箇所の特定を試みることが重要です。その上で、アスベスト含有の可能性が少しでも疑われる場合は、専門家による詳細な現地調査と分析を実施しましょう。

過去の設計図書やデータベースから調べる

アスベスト事前調査の第一歩は、過去の記録を徹底的に確認することです。具体的には、マンションが建設された当時の設計図書、仕様書、竣工図、そして過去の大規模修繕や改修工事の記録などを調査します。

これらの情報から、使用された建材の品番や商品名を特定できれば、メーカーが公表しているデータベースや国土交通省のデータベースでアスベスト含有の有無を調べることが可能です。これにより、現地調査の範囲を絞り込み、調査を効率的に進められるようになります。

<参考>
石綿(アスベスト)含有建材データベース|国土交通省

専門家による調査が安心

設計図書や仕様書を確認しても、アスベスト含有の有無が不明なケースや、記録自体が不完全な場合も少なくありません。特に、増改築や部分的な改修が繰り返された建物では、過去の記録だけでは正確な判断が困難で、専門知識を持たない事業者が独断で判断することは非常に危険です。アスベストの専門資格者(石綿含有建材調査者)に現地調査を依頼し、正確な判断を基に工事の安全性と法令遵守を担保しましょう。

実際に使われている可能性が高い箇所

共用部から専有部、建物外部にいたるまで、マンションでアスベストが使われている可能性は多岐にわたります。これらは、一見安全に見えても切断や穿孔で粉じんが飛散する恐れがあるため、工事計画時に重点的に確認し、必要に応じてサンプリングを行うことが重要です。

【集合住宅におけるアスベスト含有建材使用例】

区分具体的な使用箇所特徴・建材の種類
共用部エレベーター昇降路、階段室、機械室など吹き付けアスベスト、耐火被覆材など
ボイラー、配管、ダクト、空調設備など保温材、断熱材、パッキン材など
駐車場、廊下、軒天など(天井・屋根)化粧板、耐火被覆板など
廊下、階段など(床)ビニール床タイル、ビニールシートなど
専有部天井、壁などロックウール吸音板、ケイ酸カルシウム板など
台所・浴室などビニール床タイル、化粧ケイ酸板など
給湯器、換気ダクト、レンジフードなど保温材、ガスケット、パッキン材など
ビニール床タイル、クッションフロアビニール床タイル、クッションフロアなど
建物外部屋根スレート材など
外壁スレート板、サイディングボードなど
軒天軒天ボードなど

マンションにおけるアスベスト調査と注意点

作業員による内装、ダクトレールの点検

マンションの解体・改修工事においては、特定の規模以上の工事で法令に基づくアスベスト調査と、その結果の行政への報告が義務付けられています。この義務を怠ると、事業者には厳しい罰則が科されるため、工事を始める前に必ず確認しなければなりません。さらに居住者がいる環境での調査は、アスベスト飛散防止だけでなく、居住者への配慮も不可欠です。

マンションで調査が必要となるケース

大規模修繕工事(外壁塗装更新、屋上防水改修、耐震補強工事)、共用設備の更新(エレベーターや給排水管、ボイラー設備の交換)などは典型的な調査対象です。専有部でもリフォーム工事や水回り更新、内装改修で壁や床を扱う場合には調査が必須となるなど、規模の大小に関わらず、アスベスト含有の可能性がある工事は調査義務が発生します。

調査実施時の留意点

人通りの少ない時間帯を選んだり、一時的な立ち入り制限を設けるなど、マンションで調査を行う場合は、居住者の生活環境に配慮する必要があります。また、防音・防塵シートの設置、空調停止や換気調整による粉じん拡散防止も重要で、居住者が不安を抱かないよう、調査内容や安全対策を事前に周知することも欠かせません。事業者は調査計画時に管理組合と連携し、生活環境に配慮した調査実施を心がけることが求められます。

アスベスト発見時の対応と事業者の役割

築30年のマンション解体現場でのリフォーム工事

事前調査でアスベストが発見された場合、事業者は適切な対応計画を立て、管理組合や居住者に対し、その内容を分かりやすく説明する義務があります。アスベストの除去や封じ込め、囲い込みといった対策は、専門知識と経験が必要であり、法的手続きを遵守しながら進めることが必須です。また、事業者は、専門家として最適な対策を提案し、関係者間の合意形成を主導する重要な役割を担います。

種類や劣化状況に応じて最適な対策

アスベスト含有建材はレベル1~3に分類され、飛散性や劣化度合いによって対応が異なります。吹付け材など飛散性が高いレベル1建材は原則除去、成形板などのレベル3建材は状態によって封じ込めや囲い込みが検討されるなど、専門業者と連携し、建材ごとに最適な工法の提案が必要です。同時に、住民や発注者に対してリスクと対応方法を丁寧に説明し、合意形成を図ることも重要な役割となります。

法的手続きと行政への報告

アスベスト除去や改修工事を行う場合、大気汚染防止法や労働安全衛生法に基づく届出・報告が義務付けられています。一定規模以上の工事では事前に都道府県や労働基準監督署への計画届を提出し、完了後には結果報告も必要です。これらを怠ると法令違反となり、罰則が科されるだけでなく、事業者の信用失墜にも繋がります。法的手続きをスムーズに行うため、早期段階から行政や専門業者と調整することが不可欠です。

費用と補助金制度

アスベストの調査・除去には高額な費用がかかることが多く、共用部の場合は修繕積立金からの支出、専有部の場合は所有者負担が基本です。ただし、国や自治体にはアスベスト調査や除去工事に対する補助金制度が用意されている場合があります。調査段階から対象となる制度もあり、積極的に活用することで負担軽減が可能です。

事業者が知っておくべきマンション特有の課題

修繕工事の足場と作業服の男性

マンションにおけるアスベスト対策は、技術的な問題に留まらず、複数の関係者が関与する複雑な調整作業でもあります。管理組合、区分所有者、管理会社、居住者それぞれの立場があり、情報共有や合意形成を怠るとトラブルに発展するリスクが高まるため注意が必要です。工事の専門性に加え、コミュニケーション能力や調整力も問われる点を認識し、関係者全員が納得できる形で調査・工事を進める姿勢を目指しましょう。

関係者間の連携と情報共有

マンション工事では、管理組合が主体となりつつ、管理会社が調整役、事業者が実務担当、居住者が利用者という立場で関わります。アスベスト対応では、調査計画や工事内容を透明化し、全関係者に情報を共有することがトラブル防止の鍵です。

特に共用部工事は住民全員に影響するため、工事計画を理事会や総会で承認を得るプロセスを踏むことが必須です。技術的説明だけでなく、分かりやすい資料を用意するなど、合意形成を支援する姿勢が求められます。

居住者への説明会の実施

アスベスト調査や除去工事は居住者の生活に直結するため、不安や誤解を生まないよう事前説明が欠かせません。管理組合と連携し、住民説明会を開催して調査内容・工事方法・安全対策・工期を丁寧に説明することが望まれます。

居住者の声を真摯に受け止め、可能な範囲で反映する姿勢を示すことが、円滑な工事遂行と信頼関係の構築に繋がることを留意しましょう。

マンションアスベスト対策は「事前調査」と「関係者連携」が成功の鍵

マンション(集合住宅)のアスベスト対策は、戸建住宅に比べて管理組合や区分所有者、居住者、施工事業者など関係者が多く、調整の難易度が高いのが実情です。そのため、より慎重で誠意ある対応が求められ、調査内容や工事計画を確かな情報として共有することが、トラブル防止と円滑な進行の鍵となります。事前調査から除去工事、行政手続きまでを正確に進めるには、専門資格を持つ信頼できる調査事業者に依頼することが不可欠です。

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監修者:三井伸悟

1980年静岡県浜松市生まれ。2003年に東海大学海洋学部水産資源開発学科を卒業後、2004年に日本総研株式会社へ入社し、分析・環境分野でのキャリアをスタート。2011年には同社の原子力災害対策本部長に就任。その後、世界最大の分析会社グループEurofins傘下の日本法人にて要職を歴任。2017年にユーロフィン日本総研株式会社、2018年にはEurofins Food & Product Testingの代表取締役社長に就任。さらに、埼玉環境サービス株式会社取締役、ユーロフィン日本環境株式会社の東日本環境事業及び環境ラボ事業の部長も経験。2021年にアルフレッド株式会社を創業し、代表を務める。特定建築物石綿含有建材調査者、環境計量士(濃度)、作業環境測定士(第一種)、公害防止管理者(水質一種)の資格を保有し、20年以上にわたる環境・分析分野での豊富な実務経験と専門知識を活かし、持続可能な環境構築に貢献。

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