耐古い建築物にはアスベストが使用されている場合があるため、解体・改修工事を行う際には事前の調過去に建材として広く使用されていたアスベスト(石綿)含有石膏ボード。アスベストの健康への悪影響が明らかになったことで現在は使用が禁止されていますが、古い建築物の解体やリフォーム作業を行う際には、取り扱いに注意が必要です。
本記事では、アスベスト含有石膏ボードの特徴や見分け方をはじめ、施工時期や使用場所、安全な撤去方法について解説。アスベストが含まれている石膏ボードを適切に管理するための知識を身につけ、リスクを避けるための参考にしてください。
【本記事の要約】
・アスベスト含有石膏ボードは主に1960年代~1980年代に製造され、公共施設や商業施設、一般住宅など、様々な建築物で使用された。
・千代田建材工業株式会社、日東石膏ボード株式会社、吉野石膏株式会社の3社に関してはアスベスト含有石膏ボードの商品名が公表されている
・アスベスト含有石膏ボードは、建物の設計図書や建築仕様書に残された情報や、製品の裏面表示または表面意匠で特定できることもある
石膏ボードは、石膏(ジプサム)を主成分とした建材で、軽量で扱いやすく、優れた防火性、断熱性、吸音性を持つことから現在も壁や天井の内装材として広く使用されています。
石膏ボードにアスベストを使用するようになった理由は、主に耐火性や強度のさらなる向上が目的。アスベストは高温に強く、繊維状の構造が強度を増すため、防火材として多くの建材にも使用されていましたが、健康リスクの面から2006年の労働安全衛生法施行令の改正により、0.1重量%を超える含有製品の使用が禁止となりました。
繊維状の天然鉱物で、耐火・断熱・防音・絶縁性に優れ、安価で加工しやすいという特性から、かつては「奇跡の鉱物」と呼ばれていたアスベスト。特に建材としての需要が高く、使用用途の約8割を占めるとされ、国内では主に1960年代から建築物の屋根、天井、床、壁などに広く用いられました。
しかし、経年劣化や振動、接触などによって発生する粉じんを長期間に渡って大量に吸入すると、石綿肺や肺がんなどの深刻な健康被害を引き起こすことが判明。これを受け、日本では現在、アスベストを含む建材の製造・使用が禁止されています。
アスベストは、日本国内では主に1960年代から1980年代にかけて耐火性や断熱性、強度向上のために多くの建材に添加されており、アスベスト含有石膏ボードも耐火性能が求められる建築物で広く採用されていました。
健康リスクが明らかになり、1990年代にはアスベストを含有しない製品への切り替えが本格化しましたが、それ以降も使用されている可能性があるため、2006年以前に着工した建築物に関しては注意が必要です。
ビル、マンション、工場、学校、病院、商業施設の壁や天井、間仕切りをはじめ、防火区画や機械室、ボイラー室といった火災リスクの高い場所でも使用されるなど、使用範囲が広いのがアスベスト含有石膏ボードの大きな特徴です。
さらに、一般住宅にも多く使用された点も見逃せません。目立たないところでは、断熱や防音の目的で天井や壁の下地材として使われているケースもあるため、改修や解体時には適切な調査と処理が必要です。
石膏ボード自体は固体で、通常の使用や保持状態ではアスベスト繊維が空気中に飛散することは少ないため、アスベスト含有石膏ボードは飛散リスクが比較的低いアスベストレベル3の建材に分類されます。
とはいえ、含有石膏ボードを切断したり削ったり、破壊するような作業の際はアスベスト繊維が飛散しやすくなり発じん性は大幅に増加。作業員や周辺住民のばく露防止のためにも、徹底した飛散防止対策が求められます。
日本における石膏ボードの製造・販売に関連する企業によって構成される一般社団法人 石膏ボード工業会によると、アスベストが使用されていた石膏ボードは、1970年代から1980年代にかけて一部の製品であり、その割合は全体の1%ほどとされています。
また、国土交通省と経済産業省が連携して運用する「石綿含有建材データベース」では、アスベストが含まれている可能性がある商品の検索が可能です。含有石膏ボードを割り出す際は、こちらも活用することをおすすめします。
石膏ボード工業会の調査によると、過去にアスベストが含まれていた製品は以下の通り。ただし、同団体に所属する企業のデータをまとめたものなので、すべての製品ではない点に留意してください。
製 品 名 | 防火材料認定番号 | 含有率(重量%) |
9㎜厚準不燃石膏吸音ボード | 第2006号、第2019号 | 1 |
9㎜厚化粧石膏吸音ボード | 第2014号、第2010号 | 1 |
7㎜厚アスベスト石膏積層板 | 第1012号 | 1.5 |
9㎜厚アスベスト石膏積層板 | 第1013号 | 1.5 |
9㎜厚グラスウール石膏積層板 | 第1014号 | 1.5 |
9㎜厚不燃石膏積層板 | 第1004号 | 1.5 |
7㎜厚準不燃アスベスト石膏積層板 | 第2008号 | 1.5 |
15㎜厚ガラス繊維網入り石膏ボード | – | 4.5 |
1955年に工場を建設し、石膏ボードの製造・販売を開始した千代田建材工業株式会社。1971年~1986年に製造された一部の石膏ボードにアスベストが使用されています。
商品名 | 製造期間 | 含有率(重量%) | 防火材料認定番号 |
エースボード | 1971~1979 | 1.5 | 第1013号 |
エースボード | 1979~1986 | 1.5 | 第1004号 |
不燃シルク | 1971~1979 | 1.5 | 第1013号 |
不燃シルク | 1979~1986 | 1.5 | 第1004号 |
プラストーンエース | 1971~1979 | 1.5 | 第1013号 |
プラストーンエース | 1979~1986 | 1.5 | 第1004号 |
エースボードR | 1977~1981 | 1.5 | 第1425号 |
1947年に粉末材料と石膏ボードの生産を始めた日東石膏株式会社が、日東化学株式会社と合弁を経て設立に至った日東石膏ボード株式会社。現在、会社は残っていませんが、1985年までアスベスト含有石膏ボードを製造していました。
商品名 | 製造期間 | 含有率(重量%) | 防火材料認定番号 |
アドラ不燃ジプスター | 1982~1985 | 1.5 | 第1004号 |
アドラ不燃ボード9 | 1982~1985 | 1.5 | 第1004号 |
三菱石膏ニュースノウトーン(チェリー) | 1979~1982 | 1.5 | 第1013号 |
三菱石膏ニュースノウトーン(チェリー) | 1979~1982 | 1.5 | 第1004号 |
三菱石膏ニュースノウトーン(トラバーチン) | 1979~1982 | 1.5 | 第1013号 |
三菱石膏ニュースノウトーン(トラバーチン) | 1979~1982 | 1.5 | 第1004号 |
三菱石膏不燃アスボード | 1979~1982 | 1.5 | 第1013号 |
三菱石膏不燃アスボード | 1979~1982 | 1.5 | 第1004号 |
1901年の創業当時から現在まで、トップカンパニーとして業界を牽引している吉野石膏株式会社。1970年~1986年に製造された石膏ボードの一部にアスベストが含まれていました。
商品名 | 製造期間 | 含有率(重量%) | 防火材料認定番号 |
準不燃タイガートーン(不燃紙張り) | 1979~1984 | 1 | 第2019号 |
準不燃タイガートーン(不燃紙張り) | 1970~1979 | 1 | 第2006号 |
ニュータイガートーン(不燃紙張り) | 1975~1984 | 1 | 第2010号 |
ニュータイガートーン(不燃紙張り) | 1975~1984 | 1 | 第2014号 |
不燃ジプトーン | 1972~1979 | 2 | 第1013号 |
不燃ジプトーン | 1979~1986 | 2 | 第1004号 |
不燃タイガーボード9 | 1972~1979 | 2 | 第1013号 |
不燃タイガーボード9 | 1979~1986 | 2 | 第1004号 |
不燃マーブルトーン | 1972~1979 | 2 | 第1013号 |
不燃マーブルトーン | 1979~1986 | 2 | 第1004号 |
目視で石膏ボードにアスベストが含まれているかどうかを判断することは困難なため、建築物の施工年度や設計図書等から分かる製造番号や種類、製品の裏面に捺印された防火材料認定番号などで見分けることになります。
とはいえ、それだけではアスベスト含有を確定するには不十分。最終的には、専門業者に調査と分析を依頼して判別する必要があります。
アスベスト含有石膏ボードを製造していた各メーカーの公表内容を見ると、製品が製造されていたのは基本的に1986年まで。しかし、あくまで製造年であり、以降も流通していた可能性は高いため、1986年を目安にするのは危険です。
アスベストの有無を判断する際は、確実に使用されなくなった2006年を目安に、これより前に着工した建造物で使用されている石膏ボードには、アスベストが含まれている可能性が高いことを認識しておきましょう。
設計図書や建築仕様書には建設当初に使用されていた建材の情報が記載されていることが多いため、アスベストを含む石膏ボードが使用されているかどうかを確認できます。
また、建物の施工記録や納品書、購入明細書なども有効な手がかりです。これらの文書に、使用された建材のメーカー名や製品名、仕様が記載されていることもあるので確認してみましょう。
石膏ボード製品の裏面には、防火材料区分や認定番号、製造日、JISマークなどが記載されており、これらの情報からアスベスト含有製品か否かの特定も可能です。
ただし、防火材料認定番号が第2014号、第2019号、第1004号の認定番号を持つ製品は、アスベストを使用していない製品も含まれているため、併せて使用時期の特定も必要となります。
目視での判別は難しく、表面意匠や製品名、製造年などの情報からの推測に限界があるのが現実。最も確実かつスムーズに見分けるためにも、専門業者に調査と分析を依頼することをオススメします。
専門業者は、建物の設計図書や施工記録をもとに、使用されている可能性のある石膏ボードがアスベストを含むかどうかを調査。その後、実際にボードのサンプルを採取し、アスベスト分析を行うことで、正確な判断を下してくれます。アスベストの有無を確実に判別するためには、このような科学的な分析が不可欠です。
アスベスト含有石膏ボードは、発じん性が比較的低いとされるアスベストレベル3の建材ですが、解体や改修の際は石綿障害予防規則に従って、作業に十分に注意をしなければなりません。
また、撤去後も安心することはできず、アスベスト繊維が拡散しないように徹底的な清掃と適切な廃棄物処理が求められます。
アスベスト含有石膏ボードの除去作業は、作業中にアスベスト繊維が飛散しないように養生が不可欠。ビニールシートや特殊なカバーを使用して作業範囲を囲み、完全にアスベストの繊維を封じ込めます。
さらに、空気中に舞い上がるのを防ぐため、除去対象の石膏ボードを湿らせる湿潤化も欠かせません。水分が繊維に付着することで飛散を大幅に抑えることができ、作業中の危険性を低減。清掃作業の際にも効果を発揮します。
非飛散性石綿含有廃棄物として分類されるアスベスト含有石膏ボードは、通常の廃棄物として処理することはできず、専門的な施設で処理を行う必要があります。リサイクル処理も不可であり、廃棄物の再利用は認められていません。
アスベストを含む廃棄物は、飛散を防ぐために厳重に包装され、密閉された状態で運搬。最終処分場では専用の隔離区域が設けられ、他の廃棄物から分けて保管されます。
設備はアスベスト繊維の拡散を防ぐよう設計されており、風通しを管理したり、必要に応じて湿潤化を行ったりして、飛散を防止。最終的に廃棄物は、深さや覆土の規定に従って安全に埋設され、埋設後も定期的に監視が行われます。
防火性や断熱性、遮音性といった優れた特性のほか、経済面や工事のしやすさの面でも重宝され、「なくてはならない建材」とも称される石膏ボード。故に危険性が判明する前から、アスベストを含有するものが様々な建築物に使用されてきました。
アスベストレベル3ということもあり、一見、安全性が高いと思われがちですが、解体や改修をするに当たっては、広範囲に飛散する可能性があるので注意が必要。作業員はもちろん、周辺住民に被害が及ばないよう、事前にしっかり調査・分析を行い、アスベストの含有が判明した際は的確な対策を講じることを心掛けましょう。
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