煙突に潜むアスベストリスク|解体・改修時に知っておくべき実務対応と処理対策

青空に浮かぶ煙のぼる煙突

煙突は高温環境にさらされる構造上、過去には断熱・耐火目的でアスベスト建材が多く使用されてきました。内部断熱材が劣化すると破片が灰と混ざって落下し、解体時だけでなく清掃作業でもばく露リスクが生じる点は特に注意が必要です。煙突は内部の状態を把握しにくく、含有建材の見落としは健康被害や法令違反につながりかねません。

本記事では、煙突に使用されたアスベスト建材の特徴や見分け方、清掃・解体時の規制、レベル別の対応工法、そして事前調査・分析で押さえるべき実務ポイントを整理します。安全な作業のために、本記事を参考に自社の確認体制を見直してみてください。

【本記事の要約】
・1960〜80年代施工の煙突は内部断熱材やセメント円筒にアスベストが残存している可能性がある
・煙突は清掃・点検作業でも劣化破片が飛散しやすく、アスベストが含まれる煙突については解体同様の法令遵守と安全管理が求められる
・内部を把握しにくいため、図面確認・データ照合・分析を組み合わせた精度の高い調査が必須

煙突に使用されたアスベスト建材の特徴と危険性

アスベスト含有可能性のある工場の煙突

煙突に使用されたアスベスト建材は、主に内部に施工される断熱材(レベル2)と、外壁や筒身部分に使用される石綿セメント円筒(レベル3)の2種類です。まずは、煙突特有の構造と使用建材の傾向、さらには2種の違いも踏まえ、どのような可能性が潜んでいるのかを全体像として整理していきましょう。

アスベストの種類別リスク分類(レベル2・3)

レベル2の煙突断熱材除去は、厳格な負圧隔離養生と特定石綿作業主任者の選任、作業中の環境測定が必須となる特定作業です。

一方、レベル3のセメント円筒などの成形板は飛散性が低いものの、破砕を避けるため低速回転工具や手工具での作業が義務付けられます。

このレベルの違いは、工事コスト、工期、そして必要とされる資格や管理体制に直結するため、確実な事前調査による分類が事業者の責任となります。

煙突にアスベストが使われた理由

アスベストが煙突に採用された最大の理由は、極めて高い耐熱性と断熱性にあります。高温の排気が流れる煙突内部では、温度保持や設備保護のため断熱材が不可欠であり、アスベストはその性能とコスト面で最適と判断されました。

また、風雨や熱衝撃にさらされる外壁部にも、耐久性に優れた石綿セメント製品が広く使用された点も見逃せません。1950〜1980年代は特に採用率が高く、ビルボイラー、工場、施設建築物などで大量に利用されています。そのため、築年数が古い煙突はアスベスト含有の可能性が高く、改修・撤去時には必ず事前確認が必要です。

アスベスト含有が疑われる煙突のチェックポイント

アスベスト含有が疑われる煙突には、いくつかの共通した特徴があります。まず、1960〜1980年代に施工された建物は使用率が高く、特に内部に白色〜灰色の繊維質の断熱層が確認できる場合は注意が必要です。外壁や筒身部分に見られる石綿セメント円筒では、継ぎ目の形状や表面の質感から含有品である可能性を推測できます。

加えて、補修跡や内部のススの中に混ざる繊維状破片も重要な手がかりです。図面や施工記録、写真台帳、改修歴との突合も有効で、複数の情報を合わせて判断することで、調査対象箇所の絞り込みと分析の精度を高めることができます。

注意が必要な「製品名」と建材データベースの活用

国土交通省が公開する「石綿含有建材データベース」を活用し、過去に煙突関連で使用された製品の型番を事前に照合することが実務の第一歩です。現場に残る現物の刻印や、施主が保管する納入伝票、仕様書とデータベースの情報を徹底的に突き合わせます。

解体・清掃における規制強化のポイント

アスベスト含有可能性のある廃止された石炭火力発電所の煙突内部

煙突に関するアスベスト対策は、解体作業だけでなく清掃・点検といった日常的なメンテナンスも法規制の対象になります。背景には、震災復旧工事で隔離不良によるアスベスト濃度上昇事例が確認されたことがあり、厚生労働省は2012年7月の通知で確認義務・保護具着用・廃棄処理の徹底を明文化しました。

特に煙突内部の劣化破片は灰と混在しやすく、清掃作業でも飛散リスクが高まるため、事業者は石綿則に基づく措置を確実に実施する必要があります。

適用される主要な法律・指針

煙突のアスベスト対策において、事業者が遵守すべき柱は三法です。

石綿則(石綿障害予防規則)は作業労働者の健康保護を目的とし、大防法(大気汚染防止法)は環境への飛散防止と自治体への作業届出を義務付け、廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)は石綿廃棄物の厳格な区分、収集運搬、マニフェスト管理を要求します。

これに加え、環境省や自治体が定める技術上の指針や要綱も参照し、すべての法的要求事項を網羅した作業計画を策定することが必須です。

【石綿則】

アスベストばく露から労働者を守るための詳細な作業基準が定められているのが石綿則です。煙突内部断熱材(レベル2)を扱う場合、作業場の隔離、負圧管理、RPE(呼吸用保護具)の使用、特定石綿作業主任者の選任が必須となり、作業計画の作成や教育の実施も義務化されています。

また、作業区域の出入口管理、HEPAフィルターによる局所排気、湿潤化による粉じん抑制など、工程ごとに具体的な措置が求められ、違反時には行政指導や罰則の適用もあるため、現場での確実な遵守が欠かせません。

【大防法】

大防法では、アスベスト含有建材を扱う工事を行う際、事前届出や作業基準に基づく飛散防止措置が求められます。解体・改修工事では、隔離養生、適切な湿潤化、排気のHEPA処理、作業区域の完全封鎖が原則であり、不十分な管理は周辺住民への健康被害につながる可能性があるので注意が必要です。

また、行政は立入検査や改善命令を行う権限を持ち、違反時に罰則が科されることもあります。煙突工事は高さや風の影響を受けやすいため、大防法の遵守は特に重要です。

【廃掃法】

廃掃法は、アスベストを含む廃棄物を安全かつ適正に処理するためのルールを定めています。煙突の解体や清掃で発生する断熱材の破片や灰は、非飛散性であっても飛散リスクがあるため、密閉容器や二重袋での梱包、識別表示、保管基準などが求められます。

委託先の処理業者も、適切な許可区分を持つ企業であることを確認し、マニフェストで運搬・処分の流れを記録するなど、最終処分場までの追跡管理を徹底し、処理工程での環境汚染や不法投棄を防ぐことが重要です。

厚生労働省通知に基づく「清掃・メンテナンス時」の留意事項

2012年の厚生労働省通知(基安化発0731号)では、煙突内部の劣化破片が灰と混在し、清掃作業だけでも石綿ばく露が発生しうる点が強調されました。そのため、清掃作業も状況によっては解体作業に準じて石綿則の適用を受ける作業として扱われ、作業者の保護具着用、隔離措置、破片の確認、適正な処分が義務付けられています。

事業者は、まず煙突に使用されている断熱材やセメント円筒の含有の有無を所有者・発注者へ確認し、必要に応じて分析を行わなければなりません。さらに、アスベストが使用されている煙突の場合には、劣化破片を含む灰の取り扱いで、湿潤化、袋詰め、表示、保管まで一連の工程を適切に管理し、ばく露と飛散を確実に防止することが求められます。

【規制強化の背景】

厚労省通知が出された背景には、震災復旧工事において隔離区域の負圧管理が不十分であったため、前室や排気口で通常より高いアスベスト濃度が検出された事例があります。

この事案は、煙突内部の断熱材が劣化して破片化し、清掃時や軽微な作業でも飛散が起こりうる現実を示しました。煙突は構造的に内部状況を把握しづらく、破片が下部に蓄積しやすいため、作業前の確認と適切な隔離措置が欠かせません。

【清掃作業も「石綿則」の適用対象】

通知では、煙突の清掃作業も石綿則の適用対象であると明確にされています。事業者は、清掃を行わせる際、まず煙突に使用されている断熱材の含有の有無を所有者・発注者・図面などから確認しなければなりません。

含有が疑われる場合は、灰に断熱材の破片が混入していないか目視または分析で確認します。含有が明らかとなった際は、RPEの着用、湿潤化、隔離、袋詰め・標識・保管、廃掃法に基づく委託処分など、石綿則に沿った措置が必須です。

煙突アスベストの「レベル別」具体的な除去・処理対策

アスベスト含有可能性のある銭湯の煙突

煙突アスベスト対策は、レベル2とレベル3という建材分類に応じて工法・管理措置を最適化することが重要です。事前調査による判定結果を踏まえ、隔離、負圧管理、湿潤化、工具選定などを工程別に準備し、測定・記録・是正を繰り返すことで、安全性と法令遵守を確保します。工法の選定は、劣化状況、周辺環境、将来の維持管理まで考慮した総合判断が必要です。

事前調査と作業計画の策定

安全な煙突アスベスト対策の第一歩は、精度の高い事前調査です。図面や施工記録の確認に加え、石綿含有建材データベース、現場での外観確認、必要箇所のサンプリング分析を組み合わせ、レベル分類を適切に判定します。調査結果を基に、作業区域の区画、負圧管理、排気系統、搬出動線、人員配置、緊急時対応までを含む作業計画を策定しましょう。

また、近隣住民への周知や、発注者への説明責任も重要なプロセスです。計画段階でリスクを洗い出し、対策を定量的に整理することで、作業の安全性と効率が大幅に向上します。

【工作物石綿事前調査者による調査が必須に!】

2026年1月1日以降に着工する工事からは、煙突を含む建築物以外の「工作物」に対しても、石綿含有の事前調査は有資格者である「工作物石綿事前調査者」が行うことが義務となります。

煙突のように内部構造が複雑で劣化しやすい設備では、専門知識を持つ調査者による判断が不可欠です。適切なサンプリング位置の選定、建材の特定、危険度の評価など、高度な判断が求められるため、専門調査者の関与は作業計画の質と安全性を左右します。

【レベル2】石綿含有煙突断熱材の除去・処理工法

レベル2に分類される煙突内部の断熱材は、飛散性が高く、建材の中でも最も厳しい管理が求められる対象です。そのため、工法の選定だけでなく、区域の区画方法、負圧管理、作業者保護、廃棄物処理まで一連の工程を体系的に組み立てることが重要となります。

【除去工法】

煙突断熱材の除去工法では、まず煙突口元と作業箇所を隔離し、作業中は負圧状態を維持することが最大の要件です。作業は水を噴霧した湿潤状態で行い、空気はHEPAフィルターを通じた排気装置で浄化します。除去した断熱材は、破袋・飛散防止のため確実に二重に梱包し、専用の標識を貼付して管理区域から搬出しなければなりません。

【封じ込め工法】

煙突を継続利用する場合に限り、劣化・飛散を防ぐために封じ込め工法(CAS工法など)が選択肢となり得ます。これは、安定した被膜材で断熱材表面を覆い、アスベストの飛散を一時的に抑える手法です。

しかし、封じ込めは「除去の先延ばし」であり、将来的に煙突を解体する際には、依然としてレベル2の規制(隔離・除去)が課せられる点は留意しておきましょう。

【レベル3】石綿含有セメント円筒の解体・処理

レベル3のセメント円筒は非飛散性ですが、解体時に破砕すればアスベストが飛散するため、破断・落下は厳禁です。レベル3であっても、取り扱い方を誤ればレベル2に準ずる飛散リスクを招くことを忘れてはなりません。

【除去工法】

セメント円筒の除去では、取り外す建材を湿潤化し、粉じんが飛散しないよう低速の切断工具または手工具を用い、できる限り原形を保ったままボルトを緩めて一体で取り外します。建材を落としたり投げたりすることは厳禁で、丁寧に吊り下ろす等の工法で地上へ移動させなければなりません。

作業中の養生と、取り外した後の廃棄物の一時保管、搬出経路の清掃を徹底し、作業後の残留粉じんリスクを最小化します。

【封じ込め工法】

レベル3の封じ込め工法は、塗膜処理剤などを用いて建材の表面を強化し、劣化による繊維の飛散を防止する目的で行われます。これは主に一時的な飛散対策であり、建材自体は残存するため、将来的な解体時には適切な除去手順を踏む必要がある点に注意が必要です。

事業者は、施主に対して封じ込めは恒久的な対策ではないこと、維持管理が必要であることを明示し、施主の理解を得た上で限定的な適用が求められます。

煙突アスベスト対策の核心は「調べて、確かめて、守る」こと

煙突におけるアスベスト対策は、解体作業だけでなく、清掃・点検・保守といった日常業務まで幅広く関係します。その中心にあるのは、「まず調べ、確かめる」という事前調査と分析の徹底です。

煙突内部は劣化破片が蓄積しやすく、見た目の判断だけではリスクを把握できません。図面確認やデータベース照合、適切なサンプリング分析を通じて、含有の有無とレベルを科学的に特定することが、すべての対策の起点となることを覚えておきましょう。

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監修者:三井伸悟

1980年静岡県浜松市生まれ。2003年に東海大学海洋学部水産資源開発学科を卒業後、2004年に日本総研株式会社へ入社し、分析・環境分野でのキャリアをスタート。2011年には同社の原子力災害対策本部長に就任。その後、世界最大の分析会社グループEurofins傘下の日本法人にて要職を歴任。2017年にユーロフィン日本総研株式会社、2018年にはEurofins Food & Product Testingの代表取締役社長に就任。さらに、埼玉環境サービス株式会社取締役、ユーロフィン日本環境株式会社の東日本環境事業及び環境ラボ事業の部長も経験。2021年にアルフレッド株式会社を創業し、代表を務める。特定建築物石綿含有建材調査者、環境計量士(濃度)、作業環境測定士(第一種)、公害防止管理者(水質一種)の資格を保有し、20年以上にわたる環境・分析分野での豊富な実務経験と専門知識を活かし、持続可能な環境構築に貢献。

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