アスベストを長期にわたり吸引したことによって、健康被害が発生する可能性があります。
肺がんや中皮腫などのアスベストに関連する病気は、アスベストを吸ってから長い潜伏期間を経て発症するのが特徴です。
このような病気は、無症状で病気が進行している場合があります。
そのため、アスベスト除去工事などの仕事に従事していた方などは、定期的な健康診断が大切です。
この記事では、アスベストによる健康被害や発症する可能性のある病気と症状について、解説していきます。
アスベストは、天然の中でできた鉱物繊維で、「石綿(せきめん・いしわた)」と呼ばれています。
熱やアルカリなどに強く、丈夫で変化しにくいという特性があり、安価であったことから、過去に建物材や断熱材など様々な場所で使用されてきました。
しかし現在は、製造・使用・輸入等が禁止されています。
その理由は、
『飛散したアスベストを人が吸引することで、一部が肺の組織内に残り、これが原因で健康被害が起こる可能性がある』
と考えられているからです。
アスベスト自体が直ちに健康被害をおこすわけではなく、非常に細かいアスベストの繊維を、
「飛散すること」や「吸引すること」が問題とされています。
アスベストが原因で発症する可能性のある主な病気はこちらです。
・石綿肺(アスベスト肺)
・肺がん(原発性肺がん)
・悪性中皮腫
・びまん性胸膜肥厚
・良性石綿胸水
それぞれの病気の症状などを解説していきます。
肺が繊維化してしまう「じん肺」という病気の一つです。
アスベスト(石綿)を大量に吸引することで、繊維化が徐々に進行し、呼吸困難が生じます。
職業上10年以上アスベスト粉塵を吸入した労働者に起こる可能性があると言われます。
【初期症状】軽い息切れ 、せき、たん、運動能力の低下 など
間質性肺炎や肺気腫などの診断がされる場合もあるため注意が必要です。
【進行した場合】呼吸困難
肺胞を覆う上皮に発生する悪性腫瘍。
アスベストが原発性肺がんを引き起こすメカニズムは十分に解明されていません。
アスベストだけでなく、喫煙など様々な要因で発生する可能性があります。
また、アスベストの吸引と喫煙が重なると、肺がんのリスクが高まると言われています。
【症状】咳、たん、血痰、など
無症状で、胸部エックス線や胸部CT検査の異常として発見されることもあるため注意が必要です。
胸膜や腹膜、心膜、精巣鞘幕に発生する悪性腫瘍。
胸膜中皮腫の発症率が最も多いが、稀に腹膜などに発生することもあります。
アスベストのばく露量が多いほど、発症率が高くなると言われています。
【症状】息切れ、胸の痛み、せき、発熱、体重減少、など
無症状で胸部エックス線検査を受け、胸水貯蓄を発見されることもあるため注意が必要。
胸膜が癒着し広範囲に硬くなり、肺がふくらみにくくなり呼吸困難が引き起こされる病気。
比較的高濃度のアスベストをばく露し続けることにより発症すると考えられています。
石綿肺に合併したり、良性石綿胸水の後遺症として発生することが多いようです。
【症状】呼吸困難、反復性の胸痛、反復性の呼吸器感染、など
胸水とは、胸腔内に体液が貯留すること。
アスベスト以外の様々な原因によっても発生します。
アスベストを吸引したことによって、胸腔内に胸膜炎による胸水が生じることを、良性石綿胸水と呼びます。
胸水の消失とともに治癒するため、石綿救済給付の対象にはなっていません。
まれに胸水がひかずに、呼吸機能障害が残る可能性があります。
【症状】呼吸困難、胸痛、など
無症状で、胸部エックス線検査で発見されることもあるため注意が必要。
アスベストにさらされる仕事に従事した方は、病気を発症する可能性が高くなります。
しかし、直接吸引していない場合(持ち帰った作業着を洗う家族、工場などからの飛散を吸い込んだ場合など)も病気を発症する可能性があります。
低濃度のばく露でも病気を発症する可能性があるため、気になる症状がある場合は、早めに専門医のいる医療機関の受診がおすすめです。
・咳やたんが以前に比べて増えた
・たんに血液が混ざった
・はげしい動悸がする
・風邪をひいて、なかなか治らない
・横になると息苦しい
・やたらに眠い
・食欲がなくなった
・急に痩せた
参考:厚生労働省 石綿にばく露する業務に従事していた労働者の方へ
アスベストが原因で発症する可能性のある病気は、比較的長い潜伏期間があります。
以下の表は、病名別に潜伏期間をまとめたものです。
ただし、発症するまでの期間は個人差があるため、あくまでも目安の期間となります。
震災の復旧作業中にアスベスト粉じんを吸引し、発症したケースも報告されています。
病名 | 潜伏期間 |
---|---|
石綿(アスベスト)肺 | 15年〜20年 |
肺がん(原発性肺がん) | 15年〜40年 |
悪性中皮腫 | 20年〜50年 |
びまん性胸膜肥厚 | 30年〜40年 |
良性石綿胸水 | 平均40年 |
アスベストによる健康被害は、アスベストを吸引してすぐに症状が出るわけではありません。
上記の潜伏期間があるように、長い年月をかけて病気が進行してから症状が出てくることが多いとされています。
そのため、無症状で健康診断を受けた時に病気が判明することも多いようです。
その場合病気が進行していることもあるため、定期的に健康診断を受けるようにしましょう。
アスベストによる健康被害が発生した場合は、労災保険や国の救済制度の利用を検討しましょう。
・労災保険
・アスベスト(石綿)健康被害救済制度「救済給付」
・アスベスト(石綿)健康被害救済制度「特別遺族給付」
・それぞれの救済制度について、詳しく解説していきます。
アスベストにさらされる仕事に従事していたことが原因で、アスベストとの関連が認められた病気を発症し、療養や休業、死亡した場合には、労災保険による補償を受けられます。
なお、労災保険を受けるには、労働基準監督署長から認定を受けることが必要です。
労災保険の主な給付は以下のようなものがあります。
・療養補償給付
・休業補償給付
・傷病補償給付
・障害補償給付
・介護補償給付
・遺族補償給付及び葬祭料
また、労災保険の給付には時効があるため注意が必要です。
労災保険を受けられない方の例として、
「アスベストに関わる仕事をしていた方の家族」
「アスベスト製品を扱う工場などの近隣に住んでいた方」
などがあげられます。
このような方で、※指定疾病 が発症した場合は、救済給付を受けることができます。
※指定疾病:著しい呼吸機能障害を伴うアスベスト(石綿)肺・肺がん(気管支または悪性新生物)・悪性中皮腫・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
なお、救済給付を受けるには、独立行政法人環境再生保全機構から認定を受ける必要があります。
認定された場合は、医療費や療養費、遺族の方への葬祭料や弔慰金などが支給されます。
特別遺族給付の対象となるのは、
「アスベストによる病気で亡くなった労働者の遺族で、時効によって労災保険の遺族補償給付の権利がなくなった方」
です。
この記事では、アスベストによる健康被害や発症する可能性のある病気と症状について解説してきました。
アスベストによる健康被害は、長い潜伏期間を経て発生することがほとんどです。
アスベストを扱う仕事をしていたのは何十年も前のことであっても、病気を発症する可能性はあります。
また、無症状であっても病気が進行していることもあるため、アスベストを扱う仕事に従事していた方は、定期的な健康診断を受けることが大切です。