アスベスト公害による健康被害とは?過去の事例や生じるリスクを解説

アスベスト(石綿)は2006年以前、耐火性・防火性・防熱性に優れた特性から、公共施設から住宅など多くの建造物に使用されていました。しかし、微細な繊維を長時間吸い込み続けると肺や胸膜に深刻な健康被害をもたらすおそれがあるため、2006年以降に全面的に使用が禁止されました。
それでもアスベストの特性から、今なお被害が発生している問題があります。過去には「クボタショック」と呼ばれる公害事件も発生しており、建造物を扱う事業者はアスベストの危険性と最新規制を正しく理解し、適切な対策を講じなければなりません。
本記事では、アスベスト公害による健康被害について、過去の事例や生じるリスクを解説します。
【本記事の要約】
・アスベストは優れた性能がある一方で、健康被害をもたらす建材である
・「クボタショック」は従業員だけでなく、周辺住民にも健康被害をもたらした
・アスベストによる被害を撲滅するために、年々規制が厳しくなっている
「アスベスト(石綿)」とは、人体に悪影響を及ぼす建材

アスベスト(石綿)は繊維状の鉱物で、火や熱に強い耐性があることから、かつては断熱材や防音材として多くの建築物や製品に使用されていました。
ところが、微細な粉じんを吸い込むと、肺を傷つけるなどの健康被害を引き起こすリスクがあることが明らかになりました。このような問題から、2006年以降、日本国内でのアスベスト建材や製品の使用が禁止されました。
ただ、規制以前に建設された建造物には依然としてアスベストが残っており、解体やリフォーム作業時にアスベスト粉じんが飛散する危険性があります。この危険性を防ぐため、政府は現在もアスベストに関する規制を強化しています。
アスベスト公害の象徴「クボタショック」とは?3つの問題点を解説

「クボタショック」は、2005年に明るみに出たアスベストによる深刻な公害事件です。大手メーカー「クボタ」の工場で長期的なアスベスト粉じんのばく露が続き、従業員や周辺住民に深刻かつ大規模な健康被害をもたらしています。
アスベストによる疾患は潜伏期間が長いという特性を持ち、現在もアスベストによる健康被害が発生しています。
このような公害が再び起きると、多くの人が無自覚のままアスベストの粉じんを吸い込み、後々に重大な病気を発症する危険性があるでしょう。
ここでは、アスベスト公害の代表である「クボタショック」の問題点について解説します。
参考:全国労働安全衛生センター連絡会議「クボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<1>原点-クボタ・ショック」
① 従業員によるばく露被害が生じた
当時、工場でアスベストを使った製品を取り扱う際に、従業員に対して十分なマスクや換気設備などの防じん措置がおこなわれていませんでした。
このようななかで、工場を退職した従業員に、アスベスト肺や悪性中皮腫などの深刻な症状を訴えるケースが多く発生し、企業の管理責任が問われました。これは長期にわたってアスベストの粉じんを吸い込んでしまったことが原因として考えられます。
② 周辺住民の被害も確認された
工場から排出されるアスベスト粉じんが施設外にまで拡散し、周辺住民が自宅で生活しているうちに無意識のまま吸い込む例がクボタショックでは問題視されました。屋外に広がった粉じんを完全に防ぐのは難しく、工場に近い住民ほど被害リスクが高かったといわれています。
このようにアスベストによる被害は従業員だけの問題ではなく、地域社会全体を巻き込む深刻な事態に発展してしまいます。
③ 今なおばく露被害による影響が残っている
朝日新聞の取材によれば、クボタショックから長い年月が経過した今でも、新たに症状が現れたことが確認されています(※)。
アスベストによる疾患は、少量でも粉じんを吸い込み続けることで発症リスクが増すとされ、潜伏期間は20年以上におよぶケースもめずらしくありません。もし、再び同様の公害が発生すると、被害者が自覚症状を感じる頃にはすでに深刻な病状に進行しているおそれがあります。
(※)参考:朝日新聞「「まさか自分が」続く発症 石綿問題、「クボタショック」から18年」
アスベスト公害による代表的な健康被害とは?

アスベストの粉じんを吸い込んでも、すぐに症状が出ず、数十年後に発症するケースも確認されています。長年にわたってアスベストのばく露が続くほどリスクが高まるとされており、現在も大きな問題となっています。
アスベストに関する事業に携わる際には大きなトラブルを発生させないためにも、基本的なルールだけでなく、アスベストの性質やその健康被害などを知っておかなければなりません。
ここでは、アスベスト公害による代表的な健康被害について解説します。
① アスベスト肺
アスベスト肺は、アスベストを長期的に吸い込み続けることで肺が線維化し、呼吸機能が低下する疾患です。初期段階では咳や息切れなどの軽い症状から始まり、進行すると呼吸困難や日常生活への支障が顕著に表れます。
一度線維化が進んだ肺は元に戻るのが難しく、症状が悪化すると長期の治療が必要です。
作業環境での防じん対策が不十分なまま放置すると、従業員が次々にアスベスト肺を発症してしまうリスクが高まります。
② 悪性中皮腫
悪性中皮腫は胸膜や腹膜などにがんが発生する病気で、アスベストとの関連性が指摘されている症状です。胸や背中の痛み、胸水の増加、呼吸困難などが代表的な症状であり、早期発見が難しいため治療が遅れやすい傾向があります。
アスベスト粉じんを多量に吸い込むほど発症リスクは高いとされ、潜伏期間が20~40年と長いことから、ばく露から数十年経ってから初めて症状が出るケースもあり、症状の発覚が遅れてしまう要因となっています。
③ 肺がん
肺がんは喫煙や大気汚染などの複数の要因が絡むため、一概にアスベストが原因とは断定しにくい側面があります。しかし、アスベスト粉じんを長く吸い込むほど肺がん発症の可能性が高まるとされ、クボタショックの際にも問題となりました。
公的機関による調査でもアスベストと肺がんのメカニズムの解明は明瞭ではないものの、これまでに起こった健康被害の結果から関連性が高いとされています。
【今後の動向】アスベスト公害に対して、より厳しい規制が予想される!

2006年にアスベストの使用は全面的に禁止されましたが、現在もアスベスト建材を使った建造物が残っています。そのため政府は、2021年以降、段階的に規制を強化してきました。
これらの基準を把握せずに工事を進めれば、行政処分や社会的信用の失墜だけでなく、深刻な健康被害や訴訟リスクを招くおそれがあります。安全で確実な除去をおこなうためにも、事業者は毎年更新される指針を継続的に確認し、現場の粉じん管理体制を強化することが不可欠です。
年月 | 内容 |
2021年4月 | 延べ床80m²以上の解体工事などの事前調査結果の報告が必須 |
2023年10月 | 有資格者による調査が義務化 |
2024年4月 | 除じん性能付き電動工具の使用を義務化 |
2025年4月 | 立入禁止表や退避措置の対象をすべての作業者に拡大 |
2026年1月(予定) | 特定工作物の解体も事前調査が義務化 |
アスベストのルールに対応できるよう、今後の動向も注目しよう!

本記事では、アスベスト公害による健康被害について、過去の事例や生じるリスクを解説しました。
アスベストは人体に深刻な影響を及ぼす危険性が高いため、法律による全面禁止後も各現場での対策が求められています。2006年以前に建てられた建物にはアスベスト建材が多く残っており、解体やリフォーム時にアスベスト粉じんが飛散すると、従業員だけでなく、周辺住民を巻き込んだ公害問題に発展するおそれがあります。
国や自治体も、事前調査結果の報告や届出を求めるなど規制の強化を加速しており、無視したまま工事を進めると大きな問題になりかねないため、常に最新の情報をキャッチできるように動向を追っていかなければなりません。
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1980年静岡県浜松市生まれ。2003年に東海大学海洋学部水産資源開発学科を卒業後、2004年に日本総研株式会社へ入社し、分析・環境分野でのキャリアをスタート。2011年には同社の原子力災害対策本部長に就任。その後、世界最大の分析会社グループEurofins傘下の日本法人にて要職を歴任。2017年にユーロフィン日本総研株式会社、2018年にはEurofins Food & Product Testingの代表取締役社長に就任。さらに、埼玉環境サービス株式会社取締役、ユーロフィン日本環境株式会社の東日本環境事業及び環境ラボ事業の部長も経験。2021年にアルフレッド株式会社を創業し、代表を務める。特定建築物石綿含有建材調査者、環境計量士(濃度)、作業環境測定士(第一種)、公害防止管理者(水質一種)の資格を保有し、20年以上にわたる環境・分析分野での豊富な実務経験と専門知識を活かし、持続可能な環境構築に貢献。
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