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2025.02.28
アスベスト(石綿)の歴史と規制の歩み|なぜ使用され、どのように禁止されたのか?

アスベスト(石綿)は、優れた耐熱性や耐久性から「奇跡の鉱物」とも呼ばれ、建築資材や工業製品に広く利用されてきました。しかし、その繊維を長期間吸入すると深刻な健康被害を引き起こすことが判明し、世界各国で規制が進められてきた歴史があります。

日本においても、過去に多くの建築物にアスベストが使用されており、その除去や処理については現在も続く課題です。本記事では、アスベストの歴史や規制の流れについて詳しく解説します。

本記事の要約

①アスベストは耐熱性・耐久性・絶縁性の特徴があり、安価だったがゆえに工業で広く使用された

②アスベストの繊維は空気中に浮遊し、人が長期間吸引することで健康被害が出る症例が生じ、労働災害として認められた

③1970年以降に規制が始まり、現在もなお法改正は進んでいる

アスベスト(石綿)とは?

アスベスト(石綿)は天然に産出され、「せきめん」や「いしわた」とも呼ばれる繊維状けい酸塩鉱物です。

非常に細かい繊維で、熱や摩擦、酸、アルカリなどに強く、劣化しづらいのが特徴。スレート材や保温・断熱材をはじめとする建材や自動車のブレーキパッドをはじめとする摩擦材、石綿紡織品やガスケットなどのシール断熱材など、多岐にわたる工業製品に使用されてきました。

ただしその繊維の細かさゆえ、研磨機や切断機を使う際や建物から取り除く際に適切な措置を行わないと、飛散して人間が吸引してしまう恐れがあります。肺がんや中皮腫を発症する発がん性が指摘され、現在では製造・使用ともに禁止となりました。

アスベストの種類について

アスベストは「蛇紋石系」と「角閃石系」の2種類に大別され、合計で6種類のアスベストが含まれています。

【蛇紋石系】

・クリソタイル(白石綿):世界で使用された石綿の9割以上を占める。比較的柔軟で繊維が細かく、多くの石綿製品の原料となっている。

【角閃石系】

・クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、トレモライト、アクチノライト、アンソフィライトなどがある。

アスベストの構造について

アスベストは極めて細かい繊維状の構造をしており、その直径は数ナノメートルから数十ナノメートルほど(ナノメートル=10億分の1メートル)。肉眼では確認出来ないほど微細です。

このため、加工時や破壊時に粉塵となって空気中に飛散しやすく、吸入すると肺に沈着しやすい特性を持っています。

アスベスト(石綿)はなぜ世界中で使われるようになったのか

アスベスト(石綿)は、その耐熱性や耐久性、絶縁性に優れた特性から、長い歴史の中でさまざまな用途に使用されてきました。特に19世紀後半から20世紀にかけての工業の進展に伴い、建築資材や工業製品としての利用が急速に拡大した背景があります。

世界のアスベスト利用の変遷

アスベストの利用は、古代エジプトやギリシャの時代から始まっていましたが、本格的に産業用途で活用されるようになったのは19世紀後半の産業革命以降です。特に、建築資材や自動車部品、造船業の用途で多く使用されました。

第二次世界大戦後には、戦後復興の影響で建築資材としての用途が急増しました。1960年代にはヨーロッパ、アメリカなどでアスベスト生産量がピークに達します。

国内におけるアスベスト利用の変遷

(1)明治時代(19世紀後半〜20世紀初頭):アスベストの導入

日本では明治時代に西洋の技術が導入されるとともに、アスベストの利用が始まります。アスベストの輸入は年を追うごとに増加し、産業利用が模索されました。

(2)大正〜昭和初期(1920〜1930年代):軍需産業とアスベスト

大正時代から昭和初期にかけては軍需産業の発展に伴い、戦艦や飛行機の耐火・断熱材としてアスベストが多用されるようになります。造船所や軍需工場でも幅広く使用される一方で、1920年代以降にはアスベストを含むスレート(屋根材)が登場し、建築業界にも普及していきました。

また国内においても、輸入量に比べると僅かなものの、第二次世界大戦直前から各地で石綿資源の開発がスタート。北海道中央脊梁山脈や北上山地、阿武隈山地、秩父山地などで産出されました。

(3)戦後(1950〜1970年代):高度経済成長とアスベストの大量使用

戦後の復興と高度経済成長の影響で、アスベストの使用量は急増しました。1950〜1970年代にかけて、学校・病院・ビル・工場・住宅などの建材として広く使用され、吹き付けアスベストなどが天井や壁材に多く用いられました。さらに、造船業や自動車産業、化学工場などでも耐熱・耐火材として活用され、1970年代にはアスベストの輸入量が年間30万トンを超えるまでになっています。

アスベスト(石綿)が引き起こした労働災害

アスベストは、微細な繊維が空気中に浮遊しやすく、長期間吸入すると肺に沈着し、健康被害を引き起こす場合があります。使用が拡大する中で、アスベスト商品の製造に関連する労働者に被害が発生しました。そのような事業に従事した労働者が石綿肺(アスベスト肺)や中皮腫、肺がんなどを発症し、長い潜伏期間を経て深刻な健康被害を引き起こす事例が確認されました。

【被害が多く発生した業界】

・造船業:船舶の防火・断熱材にアスベストが使用され、多くの作業員が暴露

・自動車産業:ブレーキライニングやクラッチ部品の製造・整備時に暴露

・繊維・製造業:アスベストを含む繊維製品や工業製品の製造過程で暴露

アスベスト(石綿)の使用はいつから規制されたか

アスベストの健康被害が明らかになるにつれ、各国で規制が強化されていきました。

【国際的な規制の流れ】

1970年代:アメリカやヨーロッパでアスベストの危険性が問題視され、一部規制が開始。

1980年代:WHOやILO(国際労働機関)がアスベストのリスクを指摘し、使用規制が強化。

2000年代:EU諸国でアスベストの使用が全面禁止。

【日本の規制の流れ】

1970年代:吹き付けアスベストの使用禁止。

1990年代:クロシドライト(青石綿)・アモサイト(茶石綿)の輸入・使用禁止。

2000年代:クリソタイル(白石綿)を含むほぼ全てのアスベスト製品を禁止。

増加を続けるアスベスト(石綿)被害者

アスベストは中皮腫・肺がん・石綿肺などの疾病の原因となりますが、発症までの潜伏期間が長く(20〜40年)、過去に暴露した人々が時間をおいて発症するケースも確認されています。

アスベスト問題が認知されるきっかけとなったクボタ・ショック

2005年、大手機械メーカーのクボタが、従業員や工場周辺の住民にアスベスト関連疾患が発生したことを公表し、大きな社会問題となりました。これを機に、日本のアスベスト問題が広く認知され、規制強化や被害者救済の動きが加速しました。

石綿による被害者数について

日本国内では、アスベスト関連疾患による患者数が増加し、2019年には最大で2万人が石綿の吸引を原因として亡くなったと推計されています。これは世界でアメリカ、中国に次ぐ3番目の多さです。今後も潜伏期間の影響で新たな被害者が増える可能性があります。

日本におけるアスベスト(石綿)関連の遍歴

・日本における過去のアスベスト規制の年表

出来事概要
1960年「じん肺法」制定じん肺健診についての規定(石綿も対象)
1971年「労働基準法特定化学物質等障害予防規則(特化則)」制定製造工場を対象に、局所排気装置の設置、作業環境測定の義務付け
1972年「労働安全衛生法(労衛法)」制定
1975年特化則の改正吹き付けアスベストの使用禁止
1995年労働安全衛生法施行令(安衛法施行令)の改正クロシドライト(青石綿)・アモサイト(茶石綿)の製造・輸入・使用等禁止
2004年安衛法施行令の改正石綿含有建材、摩擦材、接着剤等10品目の製造禁止
2005年クボタ・ショック発覚
2006年石綿被害者救済法が施行労災補償の対象とならない周辺住民等に対しての救済措置も制定
2006年安衛法施行令の改正0.1重量%超の石綿含有製品の全面禁止(一部猶予措置あり)
2012年安衛法施行令の改正0.1重量%超の石綿含有製品の禁止、一部猶予措置を撤廃

引用元:環境省「関係法令の解説」https://www.env.go.jp/content/900397633.pdf

アスベスト(石綿)の影響は今後も続く

「奇跡の素材」として広く利用されてきたアスベストは、その健康被害が明らかになるにつれ、世界中で規制が進められました。日本でもクボタ・ショックをきっかけに被害者救済策が進められましたが、アスベスト建築の解体は2030年ごろがピークともいわれ、今後も長期的な影響が懸念されています。私たちの身近な問題と捉え、適切な対策を続けることが必要です。

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