アスベスト飛散防止対策の完全ガイド|事業者が守るべき法令・基準・現場対応

アスベスト(石綿)の飛散は、作業者の安全だけでなく、法令違反や周辺環境への影響にも直結する重要な課題です。飛散性が低いとされる建材であっても、劣化や破断、切断・研削といった不適切な施工によって粉じんが発生するケースは少なくありません。そのため、解体・改修工事を行う事業者には、飛散リスクを正しく把握し、法令に沿った対応を確実に実行することが求められます。
本記事では、飛散が生じる工程や対策の考え方を整理し、実務で判断に迷いやすいポイントを中心に解説します。解体・改修工事に携わる事業者が、現場での判断に迷わないための実務指針としてご活用ください。
【本記事の要約】
・非飛散性建材でも、劣化や切断等の不適切な扱いで飛散リスクが生じるため注意が必要
・事前調査を徹底し、隔離や湿潤化、保護具着用などの飛散防止措置を現場で確実に実行する
・法令を遵守し、適正な届出と廃棄物処理を行うことは、事業者の社会的責任かつ経営課題となる
- 1. アスベストの「飛散」とはどのような状態を指すのか?
- 1.1. 飛散性と非飛散性の定義と違い
- 1.1.1. アスベスト建築資材の使用部位の一例
- 2. どのような工事工程で飛散リスクが高まるのか?
- 2.1. 研削・切断・穴あけ作業
- 2.2. 災害時には緊急的な飛散リスクが生じることも
- 3. 現場で行うべき具体的な飛散防止措置とは?
- 3.1. 作業場所の隔離と負圧管理(レベル1・2)
- 3.2. 湿潤化処理と散水の徹底
- 3.3. 作業員の保護具と管理体制
- 4. 「大気汚染防止法」等の遵守事項と違反時の罰則は?
- 4.1. 法定届出と事前調査の義務
- 4.2. 廃棄物処理法に基づく適正処分
- 4.3. 違反に対する厳しい罰則規定
- 5. 飛散抑制を目指すことが事業者の社会的責任
アスベストの「飛散」とはどのような状態を指すのか?

飛散とは、建材に含まれる微細な繊維が空気中に放出され、一定時間浮遊・拡散する状態を指します。建材の種類や劣化状況、作業方法によって飛散の起こりやすさは大きく異なり、非飛散性とされる建材でも条件次第でリスクが生じるため注意が必要です。
飛散性と非飛散性の定義と違い
アスベスト建材は、その物理的性質と飛散のしやすさ(発じん性)によって、大きく3つの「作業レベル」に分類されます。レベル1・2は「飛散性」、レベル3は「非飛散性」と呼ばれますが、その境界線は「建材が破壊されず、安定した状態を保っているかどうか」です。
アスベスト建築資材の使用部位の一例
| 比較項目 | 飛散性(レベル1・2) | 非飛散性(レベル3) |
| 定義・状態 | 軽い力で崩れ、粉塵が容易に大気中に舞い上がる状態(アスベストそのものに近い) | セメントや樹脂で固められており、通常の状態では飛散しにくい状態 |
| 発じん性 | 極めて高い〜高い | 比較的低い |
| 主な建材例 | 吹付け石綿、石綿含有保温材、断熱材、耐火被覆材 | 石綿含有スレート板、サイディング、Pタイル、ビニル床タイル |
| 作業時の規制 | 隔離、負圧管理、高度な保護具が必須 | 湿潤化、手壊し、基本的な保護具が必要 |
| リスクの性質 | 「存在」がすでに飛散リスク | 「破壊(切断・破砕)」によって飛散リスク化 |
どのような工事工程で飛散リスクが高まるのか?

飛散リスクは、建材を「破壊・切断・研削」する工程で最大化します。特に電動工具の使用や高圧洗浄は、非飛散性建材であっても大量の粉塵を発生させるため厳重な警戒が必要です。
また、地震等の災害による建物の損壊や瓦礫の片付けといった、意図しないタイミングでの露出・飛散にも柔軟に対応できる備えと知識が実務上求められます。
研削・切断・穴あけ作業
- 電動工具の使用:グラインダー等で石綿含有建材を削る際、高濃度の粉塵が発生。
- 手作業の原則:飛散を抑えるため、可能な限り切断・破砕を避け、原形のまま取り外すことが推奨される。
- Uカット・Vカット:ひび割れ補修時の溝切り作業も飛散防止対策の対象となる。
災害時には緊急的な飛散リスクが生じることも
建物倒壊による露出:地震等で建物が損壊し、封じ込められていたアスベストが外部に露出・飛散するケース。
瓦礫の片付け:被災した建材を無防備に扱うことで、作業者や周辺住民が曝露するリスクが生じる。
現場で行うべき具体的な飛散防止措置とは?

現場での飛散防止対策の柱は「事前調査」「作業場所の隔離・養生」「湿潤化処理」の3点です。レベル1・2では負圧除塵装置を用いた空間の密閉管理が必須となり、レベル3でも散水や薬液による湿潤化の徹底が求められます。
作業場所の隔離と負圧管理(レベル1・2)
- 養生シートによる隔離:作業エリアを完全に密閉し、外部との接触を遮断する。
- 負圧除塵装置の稼働:内部の空気をHEPAフィルターでろ過し、外部へ漏れない気流を制御する。
- セキュリティゾーンの設置:作業員の入退室時に付着した粉塵を除去するための前室を設ける。
湿潤化処理と散水の徹底
- 常時散水:解体・除去箇所を常に濡らした状態に保ち、繊維の浮遊を物理的に抑える。
- 薬液(飛散防止剤)の使用:水だけでなく、浸透性の高い薬剤を使用して建材内部まで湿らせる。
- 湿潤状態の確認:作業中、常に効果的な湿潤状態が維持されているか目視等で点検する。
作業員の保護具と管理体制
- 防塵マスクの選定:作業レベルに応じた区分(RS3等)のマスクを正しく装着。
- 保護衣の着用:粉塵が付着しにくい使い捨ての防護服を使用し、エリア外への持ち出しを禁止。
- 有資格者の配置: 「石綿作業主任者」による直接的な指揮と、特別教育修了者による作業の徹底。
「大気汚染防止法」等の遵守事項と違反時の罰則は?

飛散防止は事業者の自主的な判断に委ねられるものではなく、「大気汚染防止法」や「石綿障害予防規則」などにより、事前調査、届出、作業基準、廃棄処理までが法的に義務付けられています。これらを怠れば、懲役や罰金といった刑事罰に加え、行政処分、指名停止、社会的信用の低下など、事業継続に影響を及ぼすおそれがあるので注意が必要です。
法定届出と事前調査の義務
- 事前調査: 建築物石綿含有建材調査者による調査を行い、結果を現場に掲示する。
- 電子報告システム: 一定規模以上の工事では、調査結果を自治体および労働基準監督署へ電子報告。
- 特定粉じん排出作業届出: レベル1・2の作業開始14日前までに、都道府県知事等への届け出が必要。
廃棄物処理法に基づく適正処分
- 特別管理産業廃棄物:飛散性アスベストは「廃石綿等」として厳重な梱包と処分が義務。
- 非飛散性のアスベスト廃棄物:成形板等であっても、他の廃棄物と混合せず、二重梱包等で飛散防止を図る。
- マニフェスト管理:収集運搬から最終処分まで、透明性の高い処理記録を保管する。
違反に対する厳しい罰則規定
- 直接罰の適用:届出義務違反や作業基準違反に対し、直ちに罰則が適用されるケースがある。
- 懲役と罰金:最大で5年以下の懲役、または1,000万円以下の罰金(法人に対してはさらに高額)が科せられるリスク。
- 行政処分:指名停止や許可取り消しなど、事業継続に重大な影響を及ぼす。
飛散抑制を目指すことが事業者の社会的責任
アスベストの飛散抑制は、作業者の安全確保にとどまらず、法令順守や周辺環境への配慮を含めた事業者の社会的責任です。事前調査から工法選定、現場管理、廃棄処理までを一貫して適切に行うことで、予期せぬリスクやトラブルを未然に防ぐことができます。
また、飛散抑制を前提とした確実な対応こそ、事業の信頼性と継続性を支える重要な経営基盤であることを改めて認識しておく必要があります。
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【参考文献】
環境省:「大気環境中へのアスベスト飛散防止対策について」
環境省:「非飛散性アスベスト廃棄物の適正処理について」
環境省:「石綿飛散防止の現状と課題について」
東京都:「建築物の解体等に係る石綿(アスベスト)飛散防止対策マニュアル」
厚生労働省:「アスベスト(石綿)に関するQ&A」

1980年静岡県浜松市生まれ。2003年に東海大学海洋学部水産資源開発学科を卒業後、2004年に日本総研株式会社へ入社し、分析・環境分野でのキャリアをスタート。2011年には同社の原子力災害対策本部長に就任。その後、世界最大の分析会社グループEurofins傘下の日本法人にて要職を歴任。2017年にユーロフィン日本総研株式会社、2018年にはEurofins Food & Product Testingの代表取締役社長に就任。さらに、埼玉環境サービス株式会社取締役、ユーロフィン日本環境株式会社の東日本環境事業及び環境ラボ事業の部長も経験。2021年にアルフレッド株式会社を創業し、代表を務める。特定建築物石綿含有建材調査者、環境計量士(濃度)、作業環境測定士(第一種)、公害防止管理者(水質一種)の資格を保有し、20年以上にわたる環境・分析分野での豊富な実務経験と専門知識を活かし、持続可能な環境構築に貢献。
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