アスベスト分析が不要なケースとは?事前調査で分析を省略できる条件と判断基準を解説

白い綿状のアスベスト繊維を、ルーペで拡大して見ている様子。指で繊維の質感を確かめている

建築物や工作物の解体・改修工事では、石綿(アスベスト)事前調査の実施が原則として求められます。しかし、すべての建材について分析調査が必要になるわけではありません。法令や行政通知上、一定の条件を満たす場合には、分析調査を省略できるとされています。適切に判断できれば、調査費の適正化や工期管理にもつながります。

本記事では、実務者が迷いやすい「分析不要の条件」を整理したうえで、見落としやすい盲点や、分析を省略した場合でも必要となる報告義務・記録の考え方まで解説します。解体・改修工事に携わる事業者の実務資料として、ぜひ参考にしてください。

【本記事の要約】
・着工年代や素材、設計図書等で根拠が明確な場合はアスベスト分析を省略できることがある。
・分析を省略しても、事前調査と根拠資料の保存は必要。不明箇所は分析またはみなし含有で対応する
・一定規模以上の工事では、石綿の有無にかかわらず事前調査結果の電子報告が必要になる。

【本記事の要約動画/音声コンテンツ】

なぜアスベスト事前調査の徹底が事業者にとって重要なのか?

白い防護服と全面防護マスクを着用した作業員が、建材の除去作業を慎重に行っている様子

事前調査は、工事に伴うアスベスト(石綿)の飛散から作業員や近隣住民の健康を守るための重要な工程です。2022年の法改正により、事前調査と結果報告が義務化された現在、適切な対応を怠ることは、健康被害のリスクだけでなく、行政指導による工程見直しや、法令違反による罰則の対象となるおそれがあります。

アスベスト事前調査の実施目的と法的背景

アスベストの事前調査は、2020年の大気汚染防止法の改正および2022年の規制強化に基づき、元請業者に課せられた法的義務です。この義務化の背景には、単なる形式的な報告だけでなく、工事の「安全」「法令遵守」「経済性」を両立させるという、事業者にとって極めて実務的な目的があります。

【健康被害の防止】
解体・改修時に発生するアスベストのばく露から、作業員や周辺住民の健康を確実に守ります。

【適切な施工計画の策定】
着工前に含有箇所を特定することで、レベルに応じた湿潤化や養生などの飛散防止対策を作業計画に正確に組み込むことが可能になります。

【コンプライアンスの遵守】
有資格者による適切な調査と行政への報告を行うことで、事業者の社会的信用の維持と法的責任の履行を担保します。

【コストの適正化】
科学的根拠に基づいて「非含有」を証明することにより、不必要な「みなし判定」による過剰な養生・除去・処分費用の発生を抑制します。

アスベストの分析調査を省略できるのはどのようなケースか?

鉄骨の梁に厚く吹き付けられた、灰色で表面が凹凸としているアスベスト含有吹き付け材のクローズアップ

着工年代、非含有素材、設計図書等によって建材を特定できる場合、分析調査は省略可能です。さらに、重ね塗りや極めて軽微な損傷にとどまる作業は、事前調査の対象外となります。

2006年9月1日以降の着工物件

原則として2006年9月1日以降に着工された建築物・工作物は、書面確認によってアスベスト含有建材が使用されていないと判断できる場合、分析調査を省略できます。ただし、増改築や部分改修、部位ごとの施工時期の混在がある場合は、別途確認が必要です。

【法的根拠】
石綿等の製造等禁止に係る制度改正

【実務の要点】
建築確認済証の交付日ではなく、実際の「工事着工日」が基準です。

【確認書類】
登記事項証明書、建築確認済証、工事記録など、着工時期を確認できる資料を根拠資料として保存しておく必要があります。

アスベスト含有がないことが明白な素材

環境省および厚生労働省のマニュアルに基づき、素材そのものとしてアスベストを含まないことが明らかなものは、分析対象から除外できます。

【対象例】
木材、金属(アルミ・鋼材)、石(天然石)、ガラス、プラスチック、畳、電球など。

【注意点】
木材を固定する「接着剤」や、裏面の下地材(アスベスト含有の可能性があるケイカル板等)は別途判定が必要です。

設計図書やメーカー資料による特定

設計図書の仕上表や仕様書から製品名が特定でき、メーカーが「アスベスト非含有」を公表している場合は、その書面を根拠に分析を省略できます。

【活用ツール】
国土交通省・経済産業省「石綿含有建材データベース」等で非含有期間を確認。

【参考文献】国土交通省・経済産業省:「石綿含有建材データベース」

【識別表示】
建材裏面や小口の印字は有力な判断材料になりますが、表示だけで結論づけず、図書や型番情報と照合して判断します。

表示内容判定結果実務上のアクション
「a」マーク含有可能性が高い根拠図書・型番情報と照合する
「無石綿」非含有表示図書・型番情報との整合確認が必要
「ノンアスベスト」非含有表示図書・型番情報との整合確認が必要
表示なし判定不能分析またはみなし含有を検討する

軽微な損傷しか及ぼさない作業

【確認資料】
・登記事項証明書
・建築確認済証
・工事履歴書

【判断ポイント】
・2006年9月1日以降の着工か
・部位ごとの施工年代が混在していないか
・増改築履歴がないか

②机上調査(設計図書・仕様書の精査)

建材を破砕・切断・穿孔しない「極めて軽微な損傷」にとどまる作業は、事前調査の対象外となる場合があります。

【具体的範囲】
手工具による釘打ち・釘抜き、下穴を開けない直接のねじ込みなど、建材を破砕・研磨・穿孔しない作業。

【NG例】
電動工具による穿孔・切断・研磨などの作業をする場合、「軽微な損傷」の枠外となります。

既存塗装の上塗り(重ね塗り)作業

既存の塗膜を剥がさず、その上から単に塗料を塗り重ねるだけの作業は、飛散リスクがないため事前調査不要となる場合があります。

【注意点】
塗装を剥がすケレン作業や、高圧洗浄で剥離させる工程が含まれる場合は、下地や旧塗膜を含めて別途判断が必要です。

調査・分析不要と判断する際の実務上の盲点は?

薄暗い現場内で、白い防護服と高性能な全面呼吸用保護具を着用し、作業に備える二人の作業員

着工年代や素材のみで分析を省略すると、行政指導や工事中断につながるリスクがあります。特に「複合建材」「接着剤」「増改築履歴」は、目視での判別が困難です。不明確な箇所を安易に「非含有」と断定せず、書面と現地の整合性を徹底的に精査しましょう。

警戒すべき「分析省略」の落とし穴

【接着剤(黒糊など)の混入】
ビニル床タイル(Pタイル)自体は非含有でも、下地の接着剤のみにアスベストが含まれているケースがあります。

【増改築・改修履歴の欠如】
建物本体が新しくても、リフォーム時に古い構造体が残っている場合は「2006年基準」の対象外となります。

【隠蔽部の断熱材】
壁内部や天井裏に、後付けされたアスベスト含有の断熱材や耐火ボードが潜んでいるケースがあります。

分析不要な工事でも行政への報告義務は発生するのか?

リフォームや解体工事が始まった室内の様子。天井や壁の一部が剥がされ、コンクリート下地や接着剤の跡が露出しており、アスベスト事前調査が必要な段階の現場風景

建築物の解体工事は、解体部分の床面積の合計が80㎡以上、建築物の改修工事と一定の工作物の解体・改修工事は請負金額100万円以上で電子報告の対象です。報告時には、分析を省略した判断根拠を整理し、事前調査結果の記録を保存しておく必要があります。

行政報告の対象と罰則規定

2022年4月より、アスベストの有無に関わらず以下の基準で報告が義務化されています。

報告が必要なケース基準となる規模備考
建築物の解体床面積の合計 80㎡以上アスベストなしでも報告必須
建築物の改修請負金額 100万円以上(税込)税込金額で判定
工作物の解体・改修請負金額 100万円以上(税込)特定の工作物が対象。2026年1月以降、一定の要件を満たす者による調査が必要

迷ったときの現実的な判断は?みなし判定と分析の使い分け

黄色いヘルメットを被った二人の作業員が、天井の構造材が剥き出しになった解体現場を内部から見上げ、調査や作業の打ち合わせをしている

不明点が残る場合、「分析で確定させる」か「アスベスト含有とみなす」かの二択で進めるのが、最終的なコストとリスクを最小化する鍵となります。

分析実施・みなし判定・分析省略の使い分け

現場の状況推奨される判断実務上のねらい
商品名・型番が特定でき、非含有の根拠が揃う分析省略無駄なサンプリング・分析コストを最小限に抑える
特定は困難だが、一刻も早く着工し工程を止められないみなし含有リスク側に倒して施工することで、調査時間をゼロにする
特定できず、アスベストありとすると処分費が跳ね上がる分析で確定適切な判定により、過剰な養生・処分コストを回避する

曖昧な判断を排除すべき理由

主観的な判断で分析を省くと、行政指導、工程見直し、施主・近隣への説明や対応に追われ、信頼低下につながるおそれがあります。

【法令違反による工事中断】
調査根拠が不十分な場合、追加調査や工程見直しが必要になることがあります。

【近隣・施主とのトラブル】
事後的に含有が発覚した場合、説明責任を果たせず、企業の信頼低下につながるおそれがあります。

【事後処理の高コスト化】
解体後に含有が判明すると、分別や再処理に追加費用が発生する場合があります。

分析不要の条件を正しく見極め、適正な事前調査を完了させる

アスベスト分析は、すべてのケースで必要になるわけではありません。しかし、省略できるのは客観的な根拠がある場合に限られ、その判断は「着工年代」「素材」「設計図書・製品情報」「作業内容」などに基づいて行う必要があります。事前調査そのものが不要になるわけではなく、書面調査と現地確認を行ったうえで、分析を省略するか、分析で確定するか、みなし含有で進めるかを選ぶことが実務上の基本です。

特に判断に迷う部位がある場合は、無理に省略せず、分析またはみなし含有を含めて検討することが、結果として手戻りの少ない進め方につながります。

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【参考文献】
国土交通省・経済産業省:「石綿含有建材データベース」
国土交通省:「目で見るアスベスト建材(第2版)」
国土交通省:「住宅・建築物の石綿対策について(関係法令等)」
環境省:「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル」
環境省:「建築物等の解体等工事における石綿飛散防止対策に係るリスクコミュニケーションガイドライン」
環境省:「大気汚染防止法及び石綿障害予防規則の改正について」
厚生労働省:「石綿障害予防規則の一部を改正する施行について(通知)」
厚生労働省:「石綿事前調査結果報告システムについて」

監修者:三井伸悟

1980年静岡県浜松市生まれ。2003年に東海大学海洋学部水産資源開発学科を卒業後、2004年に日本総研株式会社へ入社し、分析・環境分野でのキャリアをスタート。2011年には同社の原子力災害対策本部長に就任。その後、世界最大の分析会社グループEurofins傘下の日本法人にて要職を歴任。2017年にユーロフィン日本総研株式会社、2018年にはEurofins Food & Product Testingの代表取締役社長に就任。さらに、埼玉環境サービス株式会社取締役、ユーロフィン日本環境株式会社の東日本環境事業及び環境ラボ事業の部長も経験。2021年にアルフレッド株式会社を創業し、代表を務める。特定建築物石綿含有建材調査者、環境計量士(濃度)、作業環境測定士(第一種)、公害防止管理者(水質一種)の資格を保有し、20年以上にわたる環境・分析分野での豊富な実務経験と専門知識を活かし、持続可能な環境構築に貢献。

 
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