耐古い建築物にはアスベストが使用されている場合があるため、解体・改修工事を行う際には事前の調査を行い、安全に作業を進めることが必要です。調査では、建材の一部を検体(サンプル)として採取し、専門機関で分析を行うことでアスベストの有無を確認します。
本記事では、アスベストの基礎知識から事前調査の目的、検体の採取方法、分析の流れ、安全対策、費用の相場までを詳しく解説。アスベスト調査を適切に実施することで安全な工事につながります。ぜひ参考にしてみてください。
本記事の要約
・建築物の解体や改修工事の際には、正しく作業を行うため検体(サンプル)を採取してアスベスト事前調査を行う必要がある
・アスベスト含有の可能性がある建材は、粉じんの発生のしやすさによってレベルが分類される。また、建造物の部位によって主に使用されている建材が異なる
・アスベストの検体(サンプル)を採取する際は、適切な方法と安全対策を徹底する
アスベスト(石綿)は天然に産出する繊維状鉱物で、耐熱性・耐薬品性・絶縁性に優れているため、かつて多くの建築材料や工業製品に使用されていました。しかしアスベストの微細な繊維が空気中に浮遊し、それを吸入することで肺がんや悪性中皮腫、石綿肺といった疾患を引き起こす可能性があることが明らかになり、現在では使用が禁止されています。
アスベストは適切な管理と処理が求められています。そのため、建築物の解体や改修の際には調査を行い、アスベストの有無を確認することが必要です。
アスベスト事前調査とは、建築物の解体や改修工事を行う前に、建材にアスベストが含まれているかどうかを確認する調査を指します。日本では2006年にアスベストの使用が禁止されましたが、それ以前に着工・建築された建物にはアスベスト含有建材が使用されている可能性があります。
2023年10月1日からは、アスベストの事前調査や検体採取を行うにあたり、建築物石綿含有建材調査者等の資格が必要となりました。
工事の依頼を受けた施工業者は、事前調査結果を地方公共団体・労働基準監督署へ提出・報告することが義務付けられています。
アスベストの事前調査は、以下3つのステップで行います。
書面による調査の目的は次の2つです。
1. 建築物に使用されている建材に石綿が含まれているかどうかの把握漏れを防ぐこと。
2. 目視調査の効率を向上させること。
そのため設計図や竣工図、改修図、対策工事記録、維持管理や改造補修の記録、石綿調査記録などを確認し、関係者へのヒアリングを通じて情報を集めます。
設計図やヒアリングだけでは情報が不十分な場合があるため、また石綿の使用状況を正確に把握するため、現地での目視調査が必要です。目視調査では外観や屋上、内装や下地の確認、現場メモの作成などを行い、石綿の有無を判断します。
建築物の建材に石綿が含まれているか不明な場合、分析調査が必要です(石綿障害予防規則3条4項)。石綿の有無を判定するために、同一材料ごとに代表試料を選び、適切に採取して分析を行う必要があります。
事前調査では、建材の一部を検体(サンプル)として採取し、専門の分析機関で検査を行うことでアスベストの有無を特定します。検体採取の際はアスベスト繊維が飛散する可能性があるため、適切な手順を踏んだ慎重な作業が重要です。
ここでは、アスベストを含む可能性のある建材の種類、検体の採取方法、安全対策、そして分析の流れについて詳しく解説します。
アスベスト含有建材は、粉じんの発生のしやすさ(発じん性)の度合いによってレベル1〜3に分類されます。
飛び散りやすい綿状の材料のため発じん性が高く、建築建材で使用される材料の中では健康被害のリスクが高いとされる含有建材。主に耐火性や断熱性、吸音性を目的として採用されることが多いのが特徴です。
・レベル1の建材例
建材 | 主な使用用途 |
吹き付け石綿 | 鉄骨耐火被覆材、天井断熱材、機械室吸音材など。鉄骨造以外の戸建住宅への使用例は少ない |
石綿含有吹き付けロックウール | 鉄骨耐火被覆材、天井内壁断熱材、機械室吸音材、結露防止用材 |
湿式石綿含有吹き付け材 | 鉄骨耐火被覆材、特にELVシャフト内に多い。鉄骨造以外の戸建住宅への使用例は少ない |
石綿含有吹付けバーミキュライト | 天井断熱材、吸音材、結露防止用材 |
石綿含有吹付けパーライト | 内装材の天井梁型、吸音、仕上げ材 |
保温材や断熱材として配管や煙突まわりに使用されることが多い建材。レベル1ほど発じん性は高くないものの、密度が低いため崩れると粉じんが飛散しやすいので注意が必要です。除去作業時にはレベル1と同等の飛散防止対策が求められます。
・レベル2の建材例
建材 | 主な使用用途 |
石綿含有けいそう土保温材、石綿含有けい酸カルシウム保温材等 | ボイラー、タービン、化学プラント、焼却炉など、熱を発生する部分、熱を搬送するためのダクト、エルボ部分の保温 |
石綿含有けい酸カルシウム板第2種 | 鉄骨の耐火被覆材として、柱・梁、壁、天井に使用されている |
煙突断熱材 | 耐火を目的として煙突内部に使用されている |
建造物の屋根や外壁、天井、床材など、硬く成形された板状で使用されることが多い建材。発じん性が比較的低く、低リスクで除去が可能ですが、建材が破損した場合はアスベストが飛散するので慎重な取り扱いが必要です。
・レベル3の建材例
建材 | 主な使用用途 |
石綿含有スレートボード・フレキシブル板、石綿含有スレートボード・平板、石綿含有スレートボード・軟質板 等 | 不燃材料等として内装材としては壁材、天井材等に使用されている・フレキシブル板は浴室の壁・天井、台所の壁などにも使用されている |
石綿含有パルプセメント板 | 大半の製品が準不燃材料・軒天井材、内装材の製品がある |
石綿含有けい酸カルシウム板第1種 | 一般建築物の天井材、壁材として使用されている・外装では、軒天井材とその関連部材、準防火地域での軒裏などに使用されている |
引用元:アスベスト含有建材の一覧から注意すべき年代、除去方法まで徹底解説! https://alfred-lab.co.jp/asbestos-building-materials/
アスベストの検体を採取する際には、適切な方法と安全対策を徹底することが不可欠です。防護具の着用や飛散防止措置をしっかりと講じた上で、慎重に作業を行う必要があります。検体採取の流れは以下となります。
・防護具(使い捨て防塵マスク、使い捨て防塵服、手袋、保護メガネなど)を用意
・採取道具(コルクボーラ、フィルムケース、チャック付きビニール袋、養生材、スクレーパー、カッター、ハンマー、飛散防止材、HEPAフィルター付き掃除機など)を用意
試料採取時は必ず保護具を着用し、試料を湿潤化してから行う必要があります。採取場所の養生も徹底し、飛散防止を確実に行ってください。作業中に粉じんが床に落ちたり飛散する恐れがあり、第三者が吸引する危険があるため、立ち入り禁止区画の設定や周知を行って安全を確保する必要があります。
採取場所の養生が完了した後に検体(サンプル)採取を行います。建材の種類に応じて方法が異なります。
吹付け材
施工表層から下地まで貫通して試料を採取する必要があります。施工範囲が3000m²未満なら3ヶ所以上から10cm³を採取し、3000m²以上なら600m²ごとに10cm³を採取します。異なる年代や色の部分は石綿含有量に差がある可能性があるため、別々に採取してください。
耐火被覆材
奇数階と偶数階から代表的なフロアを選び、梁や柱から30cm³程度を採取します。耐火被覆材と塗り材の境界にも注意しながら採取を行います。
断熱材
折版屋根の場合は100cm²程度、煙突用の場合は断熱層と円筒管を分離して30cm³を採取します。特に煙突用は、断熱層と円筒管の両方を分けて採取する必要があります。
保温材
成形保温材と不定形保温材のつなぎ目を重点的に調査し、ボイラーや配管などから30cm³を採取します。特に長距離配管の場合は30mまたは60mごとに採取を行い、保温材同士のつなぎ目や変質している可能性のある箇所にも注意を払ってください。
成形板
施工範囲ごとに100cm²程度を採取します。改修されている場合や異なる製品が混在している可能性がある場合は、それぞれを分けて採取し、表面化粧材だけでなく内部も含めて検査します。
仕上塗材
無じん水を使用して粉じんの飛散を防ぎながら採取します。30cm³程度を採取し、塗り重ねや改修の有無にも注意を払います。薄付け仕上材、複層仕上材、厚付け仕上材ではそれぞれ採取方法が異なりますが、下地との境界部分も含める必要があります。
全ての検体は採取後に密閉容器へ入れ、情報を記録して管理します。特に、異なる建材が混在している可能性を考慮して慎重に採取を行うことが重要です。
2023年10月1日からは、アスベストの事前調査や検体採取を行う際は「建築物石綿含有建材調査者」等の資格が必要となりました。有資格者が社内にいない場合は、検体の採取から分析までを外部の専門機関に依頼する必要があります。
アスベストの分析方法には「定性分析」と「定量分析」の2種類があり、定性分析では建材にアスベストが含まれているかどうかの調査、定量分析ではアスベストが含まれている場合その濃度を調査します。
定性分析に使う方法は「JIS A 1481-1」と「JIS A 1481-2」の2つです。「JIS A 1481-1」はISO(国際規格)に基づく分析方法で、実体顕微鏡と偏光顕微鏡を使用し、層別分析が可能です。「JIS A 1481-2」はX線回折法と位相差・分散顕微鏡を使用します。
解体・改修工事のためのアスベストの事前調査では、法令上、定性分析だけで十分となるケースがほとんどです。「JIS A 1481-1」は層別分析ができるため、上塗材、主材、下地調整材など複数の層からなる仕上塗材を調査する際に適しています。
アスベスト分析調査の費用は、1検体あたり2万円程度が相場ですが、分析の種類や緊急性、依頼する会社によって大きく変動します。
特に建物全体の調査となると、総額が数十万円から数百万円に及ぶこともあります。費用に影響を与える要因として、まず分析の種類が挙げられます。定性分析はアスベストの有無を判定するため比較的安価ですが、定量分析は含有量を測定するため高額になりやすいです。ただし、解体時に定量分析は不要なケースがほとんどです。
次に、分析の緊急性も重要で、急ぎの依頼には特急料金が加算されるため、余裕を持って計画的に依頼することでコストを抑えられます。また、品質を追求する大手企業は高額になる傾向がありますが、信頼性や分析精度が高いです。一方で金額が安い会社は分析の品質を必ずしも担保できているかがわからないため、資格者数や実績などを確認しながら選ぶことが重要です。
アスベストの事前調査は健康被害を防ぐために不可欠です。解体や改修工事を予定している場合は、適切な方法で検体を採取し、信頼できる分析機関にアスベスト分析を依頼した上で、安全対策を徹底することが求められます。
アスベスト問題は、適切な知識と対策によってリスクを最小限に抑えることが可能です。法律を遵守し、専門家と連携しながら適切な方法で対応していきましょう。
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