長期間にわたって大量に吸入することで深刻な健康被害をもたらすアスベスト(石綿)。2006年に輸入、製造、使用などが禁止されたものの、それより以前に着工した建築物・工作物・船舶が国内にもまだ数多く残っています。
このような含有建材を使用した建造物の解体・改修業務に関わる企業にとって最も大切なのは、正しい知識を身につけ、粉じんの飛散を防止すること。
そのためにもこの記事では、アスベスト含有建材の基礎知識から注意すべき建材の一覧、除去方法に至るまで、万全な対策に欠かせないポイントを解説していきます。
【本記事の要約】
・2006年以前に着工した建造物にはアスベスト含有建材が使用されている可能性がある
・使用部位や特徴、製造時期からアスベスト含有建材を推測する
・飛散防止対策は発じん性レベルによって異なる
繊維状の天然鉱物であるアスベスト(石綿)は、安価で加工しやすい上、耐火・断熱・防音・絶縁など優れた機能を有しているのが大きな特徴です。
使用用途の約8割が建材製品といわれ、国内では主に1960年代に建造物の屋根や天井、床や壁などの建築材料として多く使用されました。
しかし、経年劣化や振動、接触などによって発生する粉じんを吸入することで、石綿肺や肺がんといった健康被害を及ぼす問題が明らかになり、日本では現在、アスベストを含む建材の製造・使用が禁止されています。
アスベスト含有建材は、主に1950年代から1970年代にかけて建築材料として広く国内で使用されてきました。
その後、1975年より特定化学物質等障害予防規則の改正や大気汚染防止法の制定などによって段階的に製品への使用を規制、2006年9月には労働安全衛生法施行令で、含有建材の製造、輸入、譲渡、提供、使用が全面的に禁止(一部の工業製品は2012年まで猶予期間あり)されました。
アスベスト含有建材が使われている可能性がある2006年9月以前の建造物は、解体・改修の際に注意が必要で、現在は一定規模の建築物等では事前調査及び事前調査結果の報告が義務付けられています。
国内で使用されてきたアスベストの種類は、クリソタイル(白石綿)、アモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)、アンソフィライト、アクチノライト、トレモライトの6種。
日本では現在、いずれのアスベストも含有量が重量比で0.1%を超える建材をアスベスト含有建材と定義。製造、使用、輸入の全面禁止はもちろん、廃棄物処理法でも規制が強化され、アスベストを含有する廃棄物を適正に処分することが定められました。
吸入による健康被害が問題視されているアスベスト。含有建材はその原因となる粉じんの発生のしやすさ=発じん性の度合いによって3つのレベルに分類されます。
レベル1:発じん性が著しく高い
レベル2:発じん性が高い
レベル3:発じん性が比較的低い
同じレベルに属する建材でも、製造時期や使用場所、特徴などが異なるので、アスベスト含有建材を識別する際は、以下の一覧を参考にしてください。
また、より詳細な情報が必要な場合は、建材メーカーが過去に製造したアスベスト含有建材の種類、名称、製造時期、型番・品番などをまとめた国土交通省の「石綿(アスベスト)含有建材データベース」が便利です。
引用元:国土交通省「目で見るアスベスト建材 第二版」:https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/01/010425_3_.html
飛び散りやすい綿状の材料のため、発じん性が著しく高く、建築建材で使用される材料の中では最も健康被害のリスクが高いとされる含有建材。主に耐火性や断熱性、吸音性を目的として採用されることが多いのが特徴ですが、一般的な住宅にはほとんど使用されていません。
・レベル1の建材リスト
種類 | 建材の種類 | 製造時期 | 主な使用部位と用途 | 特徴 |
吹き付け材 | 吹き付け石綿 | 1956~1975 | ・鉄骨耐火被覆材 ・天井断熱材 ・機械室吸音材 ・鉄骨造以外の戸建住宅への使用例は少ない | ・石綿の含有率が 60~70%と多い ・経年変化等により石綿の飛散性が高くなる |
石綿含有吹き付けロックウール | 1961~1987 | ・鉄骨耐火被覆材 ・天井内壁断熱材 ・機械室吸音材 ・結露防止用材 | ・石綿の含有率が30%以下 ・飛散の度合いが高い | |
湿式石綿含有吹き付け材 | 1970~1989 | ・鉄骨耐火被覆材、特にELVシャフト内に多い ・鉄骨造以外の戸建住宅への使用例は少ない | ・飛散の度合いは比較的低いが劣化度合いによっては異なる | |
石綿含有吹付けバーミキュライト | ~1988 | ・天井断熱材・吸音材・結露防止用 | ・黄金色で光沢があり、弾力がある | |
石綿含有吹付けパーライト | ~1989 | ・内装材の天井梁型、吸音、仕上げ材 | ・骨材混入の粗面吹付仕上げ |
保温材や断熱材として配管や煙突まわりに使用されることが多い建材。レベル1ほど発じん性は高くないものの、密度が低いため崩れると粉じんが飛散しやすいので注意が必要です。そのため、除去作業時にはレベル1と同等の飛散防止対策が求められます。
・レベル2の建材リスト
種類 | 建材の種類 | 製造時期 | 主な使用部位と用途 | 特徴 |
保温材 | 石綿含有けいそう土保温材 | ~1980 | ・ボイラー、タービン、化学プラント、焼却炉など、熱を発生する部分、熱を搬送するためのダクト、エルボ部分の保温を目的とする | ・主にクリソタイル、アモサイトが原料・研磨や切断などの作業で飛散する恐れがある |
石綿含有けい酸カルシウム保温材 | ~1980 | |||
石綿含有バーミキュライト保温材 | ~1980 | |||
石綿含有パーライト保温材 | ~1980 | |||
石綿保温材 | ~1980 | |||
耐火被覆 | 石綿含有けい酸カルシウム板第2種 | 1963~1997 | ・鉄骨の耐火被覆材として、柱・梁、壁、天井に使用されている | ・板状で、素材のままの使用法のほか、パネルの表面材、化粧板の基材としての用途がある・石綿含有率 30%以下 |
石綿含有耐火被覆板 | 1966~1983 | ・吹付け材の代わりに、化粧目的に鉄骨部分、鉄骨柱、梁、エレベーター周辺に使用されている | ・吹付け石綿の配合比(石綿 60%、セメント40%)を用いて工場で型枠で成形する | |
断熱材 | 屋根用折板石綿断熱材 | ~1989 | ・屋根裏の結露防止・断熱目的のために使用 | ・煙突の断熱目的のために使用 |
煙突用石綿断熱材 | ~2004 | ・石綿が 90%以上で構成されたフェルト状のもの | ・石綿が 90%以上で構成されたもの |
建造物の屋根や外壁、天井、床材など、硬く成形された板状で使用されることが多い建材。比較的発じん性が低く、低リスクで除去が可能だが、建材が破損した場合はアスベストが飛散するので慎重な取り扱いが必要です。
・レベル3の建材リスト
種類 | 建材の種類 | 製造時期 | 主な使用部位と用途 | 特徴 |
内装材 (壁・ 天井) | 石綿含有スレートボード・フレキシブル板 | 1952~2004 | ・不燃材料等として内装材としては壁材、天井材等に使用されている・フレキシブル板は湿度による変化が少ないことから、浴室の壁・天井、台所の壁などにも使用されている | ・建築用ボードとして高強度と靭性を持つ・湿度による膨張・収縮が少ない・石綿含有率は10~30% |
石綿含有スレートボード・平板 | 1931~2004 | |||
石綿含有スレートボード・軟質板 | 1936~2004 | |||
石綿含有スレートボード・軟質フレキシブル板 | 1971~2004 | |||
石綿含有スレートボード・その他 | 1953~2004 | |||
石綿含有スラグせっこう板 | 1978~2003 | ・大半の製品が不燃材料・火気使用室への施工が可能 | ・スラグ、せっこうを主原料とし、繊維を補強材とした加工性のよい材料である | |
石綿含有パルプセメント板 | 1958~2004 | ・大半の製品が準不燃材料・軒天井材、内装材の製品がある | ・軽量で加工性もよく、防火性、遮音性、吸音性に優れている | |
石綿含有けい酸カルシウム板第1種 | 1960~2004 | ・一般建築物の天井材、壁材として使用されている・外装では、軒天井材とその関連部材、準防火地域での軒裏などに使用されている | ・軽量で耐火性、断熱性に優れている | |
石綿含有ロックウール吸音天井板 | 1961~1987 | ・内装材としては天井材、外装材としては軒天井材に使用されている | ・一般建築物、事務所、学校、講堂、病院等の天井に不燃・吸音天井板として多く使われている | |
石綿含有せっこうボード | 1970~1986 | ・事務所、病院、公共施設などの天井に多く使用されている・住宅の場合は、洗面所や台所の天井に使用されている | ・色や質感が通常の石膏ボードとは異なる場合があるが、基本的にアスベスト含有ボードの見分けは難しい。 | |
石綿含有その他パネル・ボード | 1966~2003 | ・ボードは、住宅では居室、台所、浴室の内壁や天井として使用されている・パネルは、主に外壁及び室内の壁に用いられることが多い | ・アスベストとセメントやけい酸カルシウムなどを混ぜて作られている | |
石綿含有壁紙 | 1969~1991 | 湿式工法の壁に比べて、修繕、張替えが容易にでき、内装制限が適用されるオフィスビルの廊下、スポーツ施設、商業施設、地下街などを中心に使用 | ・石綿を含有するアスベスト紙に表面化粧をした壁紙で、すべて不燃材料として出荷されていた | |
耐火間仕切り | 石綿含有けい酸カルシウム板第1種 | 1960~2004 | ・耐火間仕切壁として、石膏ボードとの複合材として使用される | ・一見しては分かりにくい・防火区画に該当するか否かは図面で確認が必要 |
床材 外装材(外壁・軒天) 屋根材 | 石綿含有ビニル床タイル | 1952~1987 | ・事務所、病院、公共施設などの床に多く使用されている・住宅の場合は、洗面所や台所の床に使用されている | ・汚れに強く、耐久性や耐水性、耐摩耗性に優れている |
石綿含有ビニル床シート | 1951~1990 | ・防水性が高いことから水周りに多く使用されている | ・住宅の場合は、合板等の木質系下地面に接着剤を用いて施工するのが一般的である | |
石綿含有ソフト巾木 | (住宅用ほとん どなし) | 巾木は、壁と床の納まりに設けられた横材で、足の当たりやすい壁の下部を保護する役割と部屋の装飾をかねる | 戸建住宅では、一般的に木製巾木が多用され、ソフト巾木が使われるケースは少ない | |
石綿含有窯業系サイディング | 1960~2004 | ・一般的には、外壁材として用いられる | ・防・耐火性能が高い、耐震性、耐久性が高く、壁体内通気がとり易いなどの特徴がある | |
石綿含有建材複合金属系サイディング | 1975~1990 | ・金属製表面材に、断熱性・耐火性に必要な性能を持つ裏打材を併せて成形された乾式工法用外壁材であり、一部の製品に石綿が使われていた | ||
石綿含有押出成形セメント板 | 1970~2004 | ・一般的には非耐力壁用材料として用いられる | ・外壁材としては、厚さ 50mm 以上の製品が用いられる | |
石綿含有けい酸カルシウム板第1種 | 1960~2004 | ・一般建築物の天井材、壁材として使用されている・外装では、軒天井材とその関連部材、準防火地域での軒裏などに使用されている | ・軽量で耐火性、断熱性に優れている | |
石綿含有スレートボード・フレキシブル板 | 1952~2004 | ・不燃材料等として外装材としては軒天井への利用が多い | ・建築用ボードとして高強度と強靭性をもつ・防火性能が高い | |
石綿含有スレート波板・大波 | 1931~2004 | ・多くは工場などの屋根(大波)、壁(小波)に使用されている | ・軽量で強度がある | |
石綿含有スレート波板・小波 | 1918~2004 | |||
石綿含有スレート波板・その他 | 1930~2004 | |||
石綿含有住宅屋根用化粧スレート | 1961~2004 | ・ほとんどが屋根材として使用されているが、一部外壁に使用される場合もある | ・セメントに補強材として石綿を混入し、平板状などに成形した屋根材である | |
石綿含有ルーフィング | 1937~1987 | ・屋根ふき下地材として、野地板表面に防水機能の向上を目的として施工される材料である | ・石綿が含有されているか否かの判断は極めて困難である | |
煙突材 | 石綿セメント円筒 | 1937~2004 | ・換気用円筒材、煙突、雑排水管などに使用されている | ・断熱層がなく、管の厚みが比較的薄い |
設備配管 | 石綿セメント管 | ~1985 | ・水道管として、主に昭和 20 年代後半から使用されていたが、昭和 43 年以降より新たな使用を中止している | ・老朽化すると脆くなり、指でめくってもボロボロと崩れる |
建築壁部材 | 石綿発泡体 | 1973~2001 | ・建材材料としては、ビル外壁の耐火目地材に使用される | ・石綿の含有率は 70~90%と高い・板状のスポンジで色はベージュとグレー |
一定規模以上のアスベスト含有建材を含む建造物等を解体・改修する際は、「建築物石綿含有建材調査者」などの有資格者による事前調査並びに、調査結果の「報告」が義務付けられており、その後、対策を施した上での着工となります。
アスベストの除去方法は含有建材の発じん性レベルで異なり、飛散のリスクが高いレベル1とレベル2に関しては長期間吸引すると作業員の健康に影響を及ぼす恐れが高いため、特に慎重な対策が必要です。
含有建材を完全に除去する以外にも、薬液で飛散を防ぐ「封じ込め工法」や板材で密閉する「囲い込み工法」などがありますが、どの作業工法を行うかは、アスベストの状態や予算などを加味して決定してください。
アスベスト含有建材を下地からすべて取り除き、非アスベストの建材に入れ替える改修工法です。
リムーバル工法とも呼ばれる工法で、作業時間が長く費用も高めですが、その後はアスベストの点検・管理が不要になる上、将来的に建造物を解体する際も、除去工事が必要ないのが大きなメリットです。
アスベスト含有建材を非アスベストの建材などで覆って密閉し、飛散を防止する工法でカバーリング工法とも呼ばれます。
特に天井や梁にアスベスト建材が使われている建造物で、室内への飛散を防止する目的。短期間でできるアスベスト対策としては優秀ですが、根本的解決に至っていないため、定期的なアスベストの点検・管理が必要となります。
エンカプスレーション工法で、アスベスト建材に薬剤を吹き付け、大気中へ飛散しないように封じ込めます。
短期間で対策できる上、作業時にアスベストが飛散するリスクが低いのがメリットですが、囲い込み工法と同様に定期的なアスベストの点検・管理が必要となります。
薬剤を使ってアスベスト建材を湿潤化し、部分的に取り除く工法。主にアスベストを含有する仕上げ塗材(塗膜)を除去する際に用いられます。
飛散させずに除去できる安全性の高い工法ですが、無機系材料が結合剤となっている仕上げ材の場合、剥離剤の効果が期待できないことがあるほか、取り残しがある場合、他の工法の併用を必要とするケースもあります。
高い水圧の水を外壁などの塗膜へ噴射し、湿潤化したうえでアスベストを除去する工法。剥離工法とは異なり、薬剤を使用せずに高圧の水のみで塗膜を除去し、同時に除去物・噴射水をバキューム吸引します。
凹部も施工でき、上塗材と下地調整材を同時に除去できるのがメリットですが、高圧水の設備を使うため、費用が高くなる可能性があります。
アスベスト含有建材を含む建造物の解体や改修を行う際には、作業に従事する労働者はもちろん、周辺住民の安全にも十分に注意しなければなりません。
屋根・外壁工事の場合は、建造物の高さ以上の防じんシート、プラスチックシートを4面に設置し、その上で散水などにより十分湿潤化して、撤去作業を行うことが大切です。また、除去する際は原形のまま壊さずに移動することが原則になります。
内装工事の場合は、劣化して脱落した吹付け材などが天井に堆積していることもあるので注意が必要です。事前に天井上の堆積物を分析し、アスベストの有無を確認した上で状況に応じて隔離養生を施しましょう。
吹き付けアスベストや保温材・耐火被覆材など、アスベスト含有廃棄物は「廃石綿等」として特別管理産業廃棄物に該当します。そのため排出事業者は、これを運搬、処分、委託、及び管理するにあたって、特別管理産業廃棄物に関する基準に従って行わなければなりません。
飛散レベルが高いレベル1に該当するアスベストの除去作業には、地方公共団体経由で国から補助金が支給される場合があります。
補助の対象となるのは、対象建造物の所有者などが行う吹き付けアスベスト等の除去、封じ込めまたは囲い込みに要する費用等ですが、補助制度を導入していない地方公共団体もあるため、事前に所轄の地方公共団体に確認が必要です。
大量に長期間吸引してしまってから健康被害が表面化するまで20年~40年かかることもあり、「静かな時限爆弾」とも呼ばれるアスベスト。飛散している様子を視認するのが難しいほど非常に細かい繊維状の鉱物だけに、事前に危険性を察知することが大切です。
厚生労働省が2024年12月に公表したデータによると、2023年度の石綿関連疾病の業務上認定件数は1,232件と、依然1,000件を超えているのが現実。
いつしか当事者になってしまわないよう、ぜひ、この記事で解説しているアスベスト含有建材の種類や特徴、使用時期を参考に、そして適切な分析機関への調査をお勧めします。
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