アスベストの定量分析とは?定性分析との違いや費用の目安を解説

解体や改修工事を行う際には、アスベスト(石綿)の有無を確認するための調査が不可欠です。分析調査には、アスベストが含まれているかを確認する定性分析と、含有量を数値で把握する定量分析の2種類がありますが、大抵は定性分析のみで判断が完結します。
しかし、廃棄物の処理区分を判断する際や、特定の補助金・助成金制度の要件に合致させる際、試料のバラツキがあり定性分析では結果の判定が不十分な際など、アスベスト含有率が0.1重量%を超えることの明確な記載根拠が必要となることもあるため、解体・改修工事に関わる事業者や企業としては、定量分析への理解も深めておくことが大切です。
そのためにも本記事では、定量分析の目的や定性分析との違い、費用の目安など、工事関係者が押さえておきたいポイントをわかりやすく解説します。
【本記事の要約】
・定量分析は義務付けられていない
・主要な3種の定量分析法があり、実施する定性分析法によって方法は変わる
・総合的なコストや補助金などの条件を考慮し、定量分析を活用することが肝要
- 1. アスベストの定量分析とは?
- 1.1. 定量分析の定義と目的
- 1.1.1. ① 法規制の遵守状況を確認する
- 1.1.2. ② 暴露リスクを評価・管理する
- 1.1.3. ③ 廃棄物の処理区分を明確にする
- 1.1.4. ④ 見落とされがちなアスベストの存在を把握する
- 2. アスベスト定量分析の方法
- 2.1. X線回折定量分析方法(JIS A 1481-3)
- 2.2. 偏光顕微鏡法(JIS A 1481-4)
- 2.3. X線回折定量分析方法(JIS A 1481-5)
- 3. 定性分析と定量分析の違い
- 3.1. 分析の方法の違い
- 4. アスベスト定量分析の必要性
- 4.1. 定量分析が求められる具体的な場面
- 5. アスベスト調査の流れと定量分析の位置づけ
- 5.1. 書面調査:正確な計画立案
- 5.2. 現地での目視調査・サンプリング:専門家による確認と採取
- 5.3. 分析機関での分析:科学的根拠と定量分析の位置づけ
- 5.4. 報告書の作成:工事計画の中核を担う公式記録
- 6. アスベスト定量分析の費用
- 6.1. 一般的な費用の目安
- 7. 正確な判断と確実な対応のために、信頼できる専門会社を選ぶ
アスベストの定量分析とは?

定量分析とは、建材に含まれるアスベストの重量比を数値で測定する方法です。ただし、日本では含有率が0.1重量%を超えるか否かが法的な判定基準となっており、それを超えれば含有量の多寡にかかわらず、同様の対応が求められます。
また、実際の作業区分や防護対策は、アスベストの飛散性に応じた「レベル1〜3」によって決定されるため、含有率の精密な違いが対策に直接影響することは多くありません。そのため、事前調査ではアスベストの有無と種類を確認する定性分析が基本となり、定量分析は廃棄物処理区分の判断など特定の場面で補助的に用いられる手法とされています。
定量分析の定義と目的
定量分析の定義は、建材や土壌などの試料に含まれるアスベストの種類を明らかにし、標準化された分析手法を用いてその含有量を具体的な数値で正確に測定・算出することです。この分析には、主に次の4つの目的があります。
① 法規制の遵守状況を確認する
建材などに含まれるアスベストの含有率が法令で定められた基準値である0.1重量%を超えているかどうかを判定します。これにより、違法な使用や不適切な処理を防ぎ、法令遵守と安全な社会環境の維持に貢献します。
② 暴露リスクを評価・管理する
含有量のデータは、解体や改修工事におけるアスベストの飛散リスクを評価するための重要な情報源となります。また、作業員や周辺住民への暴露を防ぐために、適切な管理措置を立案する際の判断基準としても活用されます。
③ 廃棄物の処理区分を明確にする
アスベスト含有率を正確に把握することで、廃棄物の区分を適切に行うことができ、環境への影響を最小限に抑えた処理方法を選定するための判断材料となります。
④ 見落とされがちなアスベストの存在を把握する
製品名や使用時期だけでは、アスベストの有無を正確に判断できない場合があります。こうした不確かな状況においても、定量分析を行うことでリスクを数値で可視化でき、予期せぬアスベスト混入による健康被害や法的トラブルを未然に防ぐことができます。
アスベスト定量分析の方法

日本においてアスベストの定量分析は、日本産業規格(JIS)に基づいて実施されており、主に「X線回折法(JIS A 1481-3)」「偏光顕微鏡法(JIS A 1481-4)」「質量法(JIS A 1481-5)」の3種の手法が用いられています。
各手法は、試料の性状やアスベストの分散状態、求められる定量精度、分析コストおよび所要時間といった諸条件に応じて選定されますが、その判断には高度な専門知識と経験が必要です。適切な分析手法の選択には、分析対象の特性を総合的に判断したうえで、専門的知見と実務経験に基づく対応が求められます。
X線回折定量分析方法(JIS A 1481-3)
X線回折法は、定性分析JIS A 1481-2により検出されたアスベストについて、建材製品中のアスベスト含有率を算出する方法です。X線を試料に照射し、結晶構造に特有の回折パターンを解析することでアスベストの種類と含有率を測定します。レベル1~2の建材においては高い精度と再現性を備えております。
【ポイント】
・X線回折によって結晶構造を解析
・含有率を定量的に把握可能
・高度な分析機器と熟練技術が必要
・最も広く使用されている定量分析手法
偏光顕微鏡法(JIS A 1481-4)
偏光顕微鏡法は、定性分析JIS A 1481-1により検出されたアスベストについて、建材製品中のアスベスト含有率を算出する方法です。偏光顕微鏡を用いて処理された試料中のアスベスト繊維を観察し、その数や形状から含有量を統計的手法により推定します。定量分析でありながら、視覚的な観察結果に基づく補助的な手法として用いられることがあるのが特徴です。海外の定量方法としてメジャーであり、日本ではこの方法を指定されることは滅多にありません。
【ポイント】
・顕微鏡でアスベスト繊維を直接観察
・質量分率を統計的に推定
・有機物除去などの前処理が必要
・分析者の技術に左右されやすい
・補完的な手法として用いられる
X線回折定量分析方法(JIS A 1481-5)
定性分析JIS A 1481-1により検出されたアスベストについて、建材製品中のアスベスト含有率を算出する方法です。定性分析JIS A 1481-3との違いは定性分析がJIS A 1481-1なのか1481-2なのかの違い以外は少なく、JIS A 1481-3とJIS A 1481-5は類似性が高いです。
【ポイント】
・X線回折によって結晶構造を解析
・含有率を定量的に把握可能(精度が高い)
・高度な分析機器と熟練技術が必要
・最も広く使用されている定量分析手法
定性分析と定量分析の違い

アスベスト調査における「定性分析」と「定量分析」は、名前は似ていますが、その目的と得られる情報には明確な違いがあります。これら2つの分析方法を正しく理解することは、適切なアスベスト対策と法令遵守のために欠かせません。ここでは、それぞれの分析方法を詳しく解説します。
分析の方法の違い
定性分析では、偏光顕微鏡でアスベスト特有の繊維形状や光の反応の観察や、簡易なX線検査で蛇紋石や角閃石などの結晶構造の確認をします。アスベストが含まれているかどうかを比較的簡単に判断できますが、含有量までは把握できない点に注意が必要です。
一方、定量分析は、X線回折装置や化学処理を用いてアスベストをより精密に分析します。含有率を数値で示すことが可能で、法規制の基準への適合性や、適切な除去・処理方法の判断に役立つのがポイントです。
アスベスト定量分析の必要性

定量分析は、すべての建築物で一律に義務付けられているわけではありません。ただし、状況によっては、法令遵守やリスク評価に基づく適切な対応、そして安全な作業環境の確保のために、実施が求められるケースがあります。そのため、必要性の有無について事前に十分確認しておくことが重要です。
定量分析が求められる具体的な場面
建造物の解体・改修工事において、定量分析は常に実施されるわけではありません。ただし工事の設計書や仕様書によっては求められる可能性があるので事前に確認しておく必要です。
また、過去の調査で微量のアスベストが含まれていると判断された建材でも、現在の0.1重量%基準との整合性を正確に確認するためには、定量分析による再評価が必要となることがあります。これにより、現在求められる法的対応の妥当性を確認できます。
アスベスト調査の流れと定量分析の位置づけ

調査や分析を専門業者に依頼する場合でも、基本的な流れや各工程の役割を把握しておくことは、現場の状況を正しく理解し、適切な判断を下すために欠かせません。特に定量分析は、調査の中でも重要な判断材料となる工程であり、工事全体に影響を及ぼす要素のひとつです。調査の流れを把握しておくことは、施主や発注者としてのリスク管理にもつながります。
書面調査:正確な計画立案
調査は、建物情報の収集と計画策定から始まります。設計図や改修履歴でアスベスト使用箇所を把握するのが基本ですが、書面がない場合や建材名が不明な場合は、発注者など工事関係者へのヒアリングも重要です。また、2006年9月1日以降の建築物なら、原則として目視・分析調査なしで報告書作成が可能となっています。
現地での目視調査・サンプリング:専門家による確認と採取
書面調査結果をもとに、専門資格を持つ調査員が現地で建材を確認し、アスベスト含有の可能性を特定します。図面と異なる箇所も多いため、丁寧な照合が必須です。建材情報からアスベストの有無が明確なら分析は省略可能ですが、不明な場合は飛散防止策を講じて慎重に試料を採取します。アスベストが含まれていると仮定する「みなし判定」を行う場合は、分析を省略することも可能ですが、最新データに基づくと、分析を実施した方が最終的な費用は下がる傾向にあります。
2025年版 アスベストの最新規制動向:https://alfred-lab.co.jp/download/latest-regulatory-trends-in-asbestos/
分析機関での分析:科学的根拠と定量分析の位置づけ
アスベストの有無が書面調査や目視調査で判断できない場合は、専門機関による分析調査に進みます。通常は、含有の有無と種類を確認する定性分析のみで対応しますが、状況によっては定量分析が重要な役割を果たすことも留意しておきましょう。
たとえば、廃棄物を一般産業廃棄物として処理したい場合、アスベストの含有率が0.1重量%以下であることを明確に示す必要があり、そのためには定量分析による正確な数値データが欠かせません。
報告書の作成:工事計画の中核を担う公式記録
分析結果に基づき作成される報告書には、調査概要、採取箇所、分析詳細などが記載されます。これは、安全で適正な解体・改修工事の計画根拠となり、関係機関への提出にも用いられる重要な公式記録です。
アスベスト定量分析の費用

アスベストの定量分析にかかる費用は、求められる精度や試料の種類・数、分析機関ごとの料金体系によって大きく変動します。
高度な機器や専門知識を要する分析では、相応のコストがかかるため、依頼にあたっては目的や必要な精度、試料の内容、納期などをあらかじめ整理し、複数の分析機関から見積もりを取り比較することが重要です。費用面だけでなく、報告書の内容や対応の丁寧さといった点も含め、総合的に判断することが求められます。
一般的な費用の目安
一般的に、定量分析の費用は1検体あたり3万〜5万円程度が相場とされ、これに加え、事前に実施する定性分析に1.5万〜5万円程度の費用が別途かかるのが一般的です。
ただし、納期を急ぐ場合や、追加で試料を提出する場合には、特急料金や追加料金が発生することも留意しなければなりません。依頼する際は、事前にしっかり見積もりを確認しておきましょう。
また、コストを抑えるためには、多くの自治体が設けているアスベスト調査や除去・処理にかかる費用の一部を補助する制度を利用することも大切です。定量分析費用も補助対象となる場合があるため、自治体の担当窓口やウェブサイトで詳細を確認し、要件を満たせば積極的に活用を検討しましょう。
正確な判断と確実な対応のために、信頼できる専門会社を選ぶ
アスベストの調査において、表面的な確認だけでは不十分なケースも多く、法的基準や作業リスクに応じた的確な判断が求められます。特に、含有率を見極める定量分析は、廃棄物処理や工事計画に直結する重要な情報源です。誤った区分や不十分な対応は、法令違反や余分なコスト、近隣への影響につながるおそれもあります。だからこそ、専門知識と実績を持ち、分析精度と対応力に信頼のおける会社へ調査を依頼することが、安全かつ適正なアスベスト対策の第一歩となります。
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1980年静岡県浜松市生まれ。2003年に東海大学海洋学部水産資源開発学科を卒業後、2004年に日本総研株式会社へ入社し、分析・環境分野でのキャリアをスタート。2011年には同社の原子力災害対策本部長に就任。その後、世界最大の分析会社グループEurofins傘下の日本法人にて要職を歴任。2017年にユーロフィン日本総研株式会社、2018年にはEurofins Food & Product Testingの代表取締役社長に就任。さらに、埼玉環境サービス株式会社取締役、ユーロフィン日本環境株式会社の東日本環境事業及び環境ラボ事業の部長も経験。2021年にアルフレッド株式会社を創業し、代表を務める。特定建築物石綿含有建材調査者、環境計量士(濃度)、作業環境測定士(第一種)、公害防止管理者(水質一種)の資格を保有し、20年以上にわたる環境・分析分野での豊富な実務経験と専門知識を活かし、持続可能な環境構築に貢献。
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