アスベスト給付金とは?3つの補償・救済制度の違いと申請のポイントを解説

防護服、ヘルメット、全面マスクを着用した二人の人物が、下からのアングルで古びたスレート屋根の上で作業している。

アスベスト(石綿)による健康被害は、ばく露から発症まで長い期間を要することが多く、退職後や工事終了後に疾病が判明するケースも少なくありません。こうした被害の特性から、国は被害者や遺族を支えるために、複数の補償・救済制度を整備してきました。

「アスベスト給付金」と検索した場合、実際には複数の制度(建設アスベスト給付金、石綿健康被害救済給付、労災による補償給付)が存在し、それぞれ対象者や申請条件が異なります。

解体・改修工事に携わる事業者にとっては、制度の違いを理解しておくことが、従業員・元従業員・遺族からの相談対応の精度向上や適切な対応につながります。

【本記事の要約】
・アスベストに関する給付・補償制度は、被害の潜伏期間の長さや救済の必要性を背景に整備されてきた
・実務上は、建設アスベスト給付金、石綿健康被害救済給付、労災による補償給付の3つを切り分けて理解することが重要
・事業者は申請主体ではない場合でも、制度の違いを理解しておくことで、従業員や元従業員、遺族からの相談に適切に対応しやすくなる

目次

なぜアスベスト給付金・補償制度が設けられたのか?

紙に、黒い文字で『給付金』と縦書きで大きく印字され、その部分がライトアップされている。

アスベスト被害は潜伏期間が極めて長く、退職後や廃業後に発症するケースが多いため、国による救済制度の整備が進められてきました。被害が判明した時点で企業が存在しない場合でも、被害者が路頭に迷わないよう、社会全体で支える公的な補償・救済制度が段階的に整備されています。

アスベスト被害は発症までの潜伏期間が長い

【数十年のタイムラグ】
アスベストによる健康被害は、吸い込んでから中皮腫や肺がんを発症するまでに20年〜50年程度の潜伏期間を経て、発症するとされています。

【現在の発症者は過去の現場の反映】
今まさに発症している方々は、数十年前に防塵対策が不十分だった現場で作業していたケースが多く報告されています。

退職後や企業廃業後に被害が判明するケースも多い

【責任主体の不在】
発症したときには既に現役を退いていたり、当時の勤務先が廃業していたりすることが珍しくありません。

【個別企業の対応限界】
一つの企業が数十年前の曝露に対して責任を負い続けることには限界があり、公的な救済スキームが不可欠となりました。

【一人親方の救済範囲の拡大】
最高裁の判断に基づき、労働基準法上の「労働者」だけでなく、これまで保護の枠組みから漏れがちだった、一人親方や中小事業主についても、一定の条件のもとで対象とされています。

被害救済と迅速な補償のために制度整備が進められてきた

【裁判を経ずに請求できる仕組み】
被害者が一人ずつ訴訟を起こす負担を軽減するため、法律に基づいて請求できる仕組みが整備されました。

【社会的責任の明確化】
国や建材メーカーの責任を明確にしつつ、被害者への謝罪と補償をセットで行う体制へと移行しています。

アスベスト給付金に関する制度成立までの流れは?

最高裁判所の建物の前に建つ石碑。石碑には金色の文字で『最高裁判所』と刻まれている。

アスベスト被害の社会問題化(いわゆるクボタショック)に伴い、まずは住民向けの救済法、次いで建設作業員向けの給付金法という順で整備されました。特に建設作業員については、長年の集団訴訟と最高裁判決が大きな転換点となり、現在の建設アスベスト給付金制度が法制化されています。

石綿健康被害救済法の施行

【2005年のいわゆるクボタショック】
工場周辺住民の健康被害が社会問題化したことを受け、2006年に石綿健康被害救済法が施行されました。

【隙間のない救済を目指して】
労災補償等の対象とならない被害者や遺族を迅速に救済する制度として整備されました。

建設アスベスト訴訟と国の責任をめぐる流れ

【全国での集団訴訟】
建設現場で働いていた作業員たちが、国とメーカーの規制不足を訴え、10年以上にわたり裁判で争われました。

【2021年の最高裁判決】
最高裁判決等では、国が規制権限を適切に行使しなかったことについて責任が認められました。

建設アスベスト給付金法の成立と施行

【迅速な解決のための新法】
最高裁判決等を受け、裁判を経ずに請求できる仕組みとして「建設アスベスト給付金法」が2021年に成立し、2022年から給付金の請求受付が始まりました。

【和解の定型化】
訴訟を継続している人だけでなく、これから申請する人も同じ基準で救済される道が開かれました。

自社の元従業員が労災認定を受けた場合、その認定結果を利用して建設アスベスト給付金を申請手続きの参考資料として活用できる場合があります。

アスベスト給付金は3種類ある?まず押さえたい制度の全体像

書類の上に置かれた黒いボールペン。書類のタイトルは『労働者災害補償保険』と書かれている。

大きく分けて「建設アスベスト給付金」「石綿健康被害救済給付」「労災による補償」の3つがあります。これらは対象となる「曝露の原因(仕事か、それ以外か)」や「就業形態(労働者・一人親方等)」によって使い分けられます。

3大制度の主要スペック比較表

建設アスベスト給付金は建設従事者向け、石綿健康被害救済制度は労災等で補償されない被害者向け、労災保険は業務上ばく露が認められる労働者等の基本制度です。

項目労災保険建設アスベスト給付金石綿健康被害救済給付
制度の性質労働者等に対する保険給付建設従事者等に対する給付金制度労災等で補償されない人への救済制度
根拠法令労働者災害補償保険法特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律石綿による健康被害の救済に関する法律
主な対象者労働者、特別加入者建設業務に従事した労働者、一人親方、中小事業主、家族従事者等労災等で補償されない被害者や遺族
主な給付内容療養、休業、障害、遺族などの各種補償疾病区分等に応じた給付金医療費、療養手当、葬祭料、特別遺族弔慰金など
申請先労働基準監督署厚生労働省環境再生保全機構 ERCA・保健所等
実務上の位置づけ業務上ばく露がある労働者の基本ルート建設分野の特別な給付制度労災等でカバーできない場合の救済ルート

建設アスベスト給付金:最高裁判決が生んだ国家賠償制度

建設アスベスト給付金制度は、建設現場でアスベストにばく露した労働者等に対し、給付金法に基づいて国が給付金を支給する制度です。制度創設の背景には、建設アスベスト訴訟において国の責任が認められた経緯があります。

【どのような建設従事者が対象になるのか】
対象期間と場所:吹付作業:昭和47年(1972年)10月1日 〜 昭和50年(1975年)9月30日
        屋内建設作業:昭和50年(1975年)10月1日 〜 平成16年(2004年)9月30日

対象職種の範囲:大工、左官、電工、配管工、塗装工、タイル工、解体工など。

一人親方の包摂:雇用されていた労働者だけでなく、一人親方や中小事業主(特別加入者)も、現場での実作業が証明できれば労働者と同等の基準で救済されます。

【ポイント】
労災保険を受給している場合でも、別制度として重ねて請求・受給が可能です。

【疾患別・給付額参考値】
厚労省の手引きでは、建設アスベスト給付金の金額区分として550万円、700万円、800万円、950万円、1,150万円、1,200万円、1,300万円が示されています。肺がんでは喫煙歴等による減額の考え方も案内されています。

疾病区分など給付額
石綿肺管理2で合併症なし550万円
石綿肺管理2で合併症あり700万円
石綿肺管理3800万円
著しい呼吸機能障害を伴わないびまん性胸膜肥厚950万円
良性石綿胸水1,150万円
著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺・びまん性胸膜肥厚1,150万円
中皮腫、肺がん、死亡事案など1,150万〜1,300万円の区分あり

※実際の給付額は疾病の種類、病態、死亡の有無などによって決まるため、請求時は最新の手引きで確認が必要です。

石綿健康被害救済給付:労災等でカバーされない被害者を対象とした社会的セーフティネット

「クボタショック」を機に制定された、迅速な救済を目的とした制度です。仕事との因果関係が特定しきれない場合でも、医学的基準を満たせば助成が行われます。

【労災補償の対象とならない人を救済する制度】
環境曝露の救済:石綿製品製造工場の周辺住民など、業務以外でアスベストにばく露したことにより発症した場合に対象となることがあります。

家族の二次曝露:作業員が持ち帰った作業着の洗濯などを通じて粉じんを吸い込み、発症した家族も対象です。

自営業者の受け皿:建設業以外でアスベストを扱っていた自営業者など、どの制度にも当てはまらない方の窓口となります。

【ポイント】
仕事が原因であっても労災等で補償されない場合の重要な救済制度です。

【給付内容・金額一覧表】

給付の種類内容金額
医療費認定疾病の医療に要した自己負担分など全額支給
療養手当療養中の生活支援月額 103,870円
葬祭料葬祭に要する費用199,000円
特別遺族弔慰金認定申請前に死亡した場合などの遺族給付2,800,000円
特別葬祭料認定申請前に死亡した場合など199,000円

特別遺族給付金との関係

特別遺族給付金は、アスベストによる疾病で死亡した労働者の遺族が、労災保険の遺族補償給付を請求できる権利を時効により失った場合に利用できる制度です。請求窓口は労働基準監督署であり、石綿健康被害救済制度とは分けて整理しておくと理解しやすくなります。

労災による補償給付:労働者への最も手厚い基本ルート

業務としてアスベストを扱い、健康被害を受けた「労働者」に対する最も給付内容が手厚い制度です。治療費から遺族の生活費まで幅広くカバーします。

【業務上ばく露が認められる場合の基本ルート】
労働者の権利:建設会社や解体会社に雇用されていた期間がある場合、まずこの労災申請を検討するのが基本です。

認定基準:認定では、一定期間のアスベストばく露作業歴や医学的所見などが総合的に確認されます。

【労災補償の主な内容】

給付名支給内容
療養補償給付診察、薬剤、手術、入院などの費用
休業補償給付療養のため働けない期間の補償
傷病補償年金傷病が長期化し一定の障害状態にある場合の給付
障害補償給付症状固定後に障害が残った場合の給付
遺族補償給付被災労働者等が死亡した場合の遺族補償
葬祭料葬祭を行う場合の給付

救済制度との違い

審査の厳格さ:救済制度(環境再生保全機構)よりも認定基準が厳しく、業務との因果関係を詳細に調査されます。

補償の厚み:認定されれば医療費だけでなく休業補償や年金が支給対象となるため、救済制度より補償範囲が広くなりやすいといえます。

自分がどの制度の対象かを判断するポイントは?

白いマスクと水色のヘルメットを着用した、作業服姿の男性。男性は腕を組み、眉間にシワを寄せ、複雑な表情で何かを考えている。

「建設業かどうか」「仕事が原因か」「生存中か」の3点を順に確認することで判断できます。状況に応じて複数の制度を組み合わせて利用することもあるため、フローチャートで整理すると判断しやすくなります(専門家への相談も有効です)。

建設業務に従事していたか

  • 【YES】建設アスベスト給付金と労災の両方を検討します。
  • 【NO】工場勤務なら労災、住民なら救済法を検討します。

仕事が原因か、それ以外のばく露か

  • 【仕事が原因】労災申請を優先。一人親方なら建設給付金の単独申請も視野に入れます。
  • 【仕事以外が原因】環境曝露として、石綿健康被害救済給付(環境再生保全機構)を申請します。

本人申請か、遺族申請か

  • 【本人の場合】療養費や休業補償が中心となります。
  • 【遺族の場合】死亡を原因とする一時金や遺族年金の請求となります。特に「時効」の起算点が異なるため注意が必要です。

アスベスト給付金・補償の申請で必要になる資料と流れは?

書類の上に置かれた車椅子の模型。書類のタイトルは『労働者災害補償保険』。手前には黒いボールペンが置かれている。

診断書などの「医学資料」と、当時の働き方を証明する「職歴資料」をセットで準備します。資料不足で却下されないよう、当時の記録をいかに客観的に集められるかが認定可否を左右する重要なポイントです。

申請先ごとの基本的な流れ

【相談と調査】
まずは専門の窓口や弁護士、アスベスト調査会社に相談し、どの制度が最適かを見極めます。

【審査期間】
申請後は、提出資料や認定審査の状況に応じて一定の審査期間を要します。資料不足があると確認に時間がかかるため、初期段階で医学資料と職歴資料をできるだけ整理しておくことが重要です。

制度選択を誤らないための確認事項

【上位制度の優先】
例えば、労災認定が得られるなら、救済法よりもまず労災を優先すべきです。

【時効の再確認】
それぞれの制度で時効の計算が異なるため、期限が迫っている場合は迅速な判断が求められます。

アスベスト給付金は制度の違いを正しく理解することが出発点

アスベスト給付金と一口にいっても、実際には建設アスベスト給付金、石綿健康被害救済給付、労災による補償給付という複数の制度があり、それぞれ対象者や申請先、必要資料が異なります。制度の混同は申請の遅れや判断ミスにつながるため、まずは「建設業務かどうか」「仕事が原因かどうか」「本人申請か遺族申請か」を整理し、自分に合った制度を見極めることが重要です。

また、制度の違いを理解するだけでなく、申請や相談対応の前提となる資料を早い段階で整理しておくことも欠かせません。特に解体・改修工事に携わる事業者にとっては、アスベストに関する調査・分析を適切に進められる体制を整えておくことが、実務対応の精度や信頼性を高めるうえでも重要です。

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【参考文献】
厚生労働省:「特別遺族給付金」
厚生労働省:「建設アスベスト給付金 請求の手引き②」
独立行政法人環境再生保全機構 ERCA:「アスベスト(石綿)による健康被害救済給付の概要」
独立行政法人環境再生保全機構 ERCA:「労災給付等との関係|制度の概要」
独立行政法人環境再生保全機構 ERCA:「石綿健康被害救済制度の紹介」

監修者:三井伸悟

1980年静岡県浜松市生まれ。2003年に東海大学海洋学部水産資源開発学科を卒業後、2004年に日本総研株式会社へ入社し、分析・環境分野でのキャリアをスタート。2011年には同社の原子力災害対策本部長に就任。その後、世界最大の分析会社グループEurofins傘下の日本法人にて要職を歴任。2017年にユーロフィン日本総研株式会社、2018年にはEurofins Food & Product Testingの代表取締役社長に就任。さらに、埼玉環境サービス株式会社取締役、ユーロフィン日本環境株式会社の東日本環境事業及び環境ラボ事業の部長も経験。2021年にアルフレッド株式会社を創業し、代表を務める。特定建築物石綿含有建材調査者、環境計量士(濃度)、作業環境測定士(第一種)、公害防止管理者(水質一種)の資格を保有し、20年以上にわたる環境・分析分野での豊富な実務経験と専門知識を活かし、持続可能な環境構築に貢献。

 
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