アスベスト労災で補償を受けるには?認定条件・補償金額・申請手順・時効を解説

防護服を着た人が建設現場の壁からアスベストを除去している

中皮腫や肺がん、石綿肺などのアスベストによる健康被害は、業務上のばく露との関係が認められれば、労災保険給付の対象となる場合があります。ただし、アスベストの問題は発症までに10〜50年の潜伏期間があるため、退職後や会社の廃業後、本人の死亡後に初めて制度を調べるケースも少なくありません。

また、アスベスト関連の補償制度には、労災保険給付のほか、建設アスベスト給付金や石綿健康被害救済制度もあり、それぞれ対象や請求の考え方が異なるため、違いを整理しながら確認することが重要です。

本記事では、アスベストと労災の基本から、受けられる補償、申請方法、必要書類、遺族補償、時効、他制度との違いまでを順に解説します。制度の全体像を把握し、必要な対応を見極めるための参考として、ぜひ活用してください。

【本記事の要約】
・業務上のばく露との関係が認められれば、中皮腫・肺がん・石綿肺・良性石綿胸水など5種類の疾病が労災認定の対象候補となる
・補償内容や申請方法だけでなく、必要書類、遺族補償、時効まで整理して確認することが重要
・労災、特別遺族給付金、建設アスベスト給付金、石綿健康被害救済制度など、制度ごとの違いを整理して確認することが重要

どのようなアスベスト被害が労災認定される?

アスベストによる健康被害は、仕事での石綿ばく露との関係が認められれば、労災の対象となる可能性があります。まずは対象となり得る疾病や、認定判断で見られるポイントを整理しておきましょう。

アスベストによる健康被害が労災の対象となる理由

労災保険は、業務が原因で発症した疾病や死亡などに対して給付を行う制度です。仕事の中でアスベストにばく露し、その結果として疾病を発症したと認められれば、労災保険給付の対象になり得ます。

【ポイント】
  • 労災では、疾病と業務との関係があるかどうかが重要になる
  • アスベスト関連疾患は、退職後に発症するケースも少なくない
  • 本人が亡くなっている場合は、遺族が請求することもある

今は働いていなくても申請できる?

アスベスト関連疾患では、発症時ではなく、過去にどのような仕事に従事し、どのような石綿ばく露があったかが重要です。退職後であっても、在職中の作業内容や勤務先、担当していた工事の内容などが、労災申請の判断材料になることがあります。

労災認定の対象となる主な疾病

アスベストによる健康被害として知られているのは中皮腫ですが、労災の対象となり得る疾病はそれだけではありません。代表的なものを整理すると、次のとおりです。

疾病名アスベストとの関連認定上の主なポイント
中皮腫非常に強い(原因の多くが アスベスト)ばく露歴があれば可能性が高いとされる
肺がん強い(ばく露量・期間に依存)石綿ばく露歴や医学的所見の確認が重要 
石綿肺長期・高濃度ばく露で発症ばく露期間の立証が論点になりやすい
良性石綿胸水比較的少ないばく露でも発症例あり画像所見が重要
びまん性胸膜肥厚胸膜の広範な肥厚呼吸機能への影響も評価される

※病名だけで直ちに労災認定されるわけではありません。まずは、どのような疾病が対象候補になるのかを押さえておくことが大切です。

中皮腫・肺がん・石綿肺で認定時に見られるポイント

中皮腫や肺がん、石綿肺で労災申請を行う場合は、その疾病が仕事によるアスベストばく露と関係しているかどうかが重要です。そのため、労働基準監督署などが労災認定を判断する際には、次のような点が判断材料になります。

【ポイント】
  • どのような仕事に従事していたか
  • アスベストを扱う現場や粉じんに接していたか
  • ばく露期間がどの程度あったか
  • 診断内容や画像所見にアスベスト関連の所見があるか

労災認定では、診断名だけでなく、業務によるアスベストばく露との関係も確認されます。そのため、申請時は、作業内容や現場の状況まで整理しておくことが大切です。

アスベスト労災ではどのような補償を受けられる?

アスベスト労災で関係する補償は、治療中なのか、働けない状態なのか、死亡後なのかによって変わります。本人向けの給付だけでなく、遺族補償まで含めて全体像を把握することが大切です。

本人のみが受けられる3種の補償

どの給付が関係するかは、治療中なのか、休業が必要な状態なのか、障害が残ったのかによって変わります。まずは、本人の状況に応じて確認すべき給付が異なると押さえておくとよいでしょう。

療養補償給付:治療や療養が必要なときに関係する給付です。
休業補償給付:働けず、賃金を受けられないときに関係します。
障害補償給付:症状固定後に障害が残った場合に関係する給付です。

  • それ以前の着工:種類によってはアスベスト含有の可能性があるため、確認しておくことが重要です。

補償金額はどのように決まるのか

アスベスト労災の補償額は一律ではなく、受ける給付の種類や本人、遺族の状況によって変わります。まずは金額だけで判断するのではなく、どの給付が関係するのかを整理したうえで確認することが大切です。

各給付金額の目安は次の通りです。

給付名金額の目安補足
療養補償給付必要な療養の給付、または療養費の全額労災指定医療機関等では、原則として自己負担なく必要な治療を受けられます。
休業補償給付休業4日目から、1日につき給付基礎日額の60%このほかに、休業特別支給金として給付基礎日額の20%が支給されるため、合計では原則80%が目安です。
障害補償給付障害等級に応じて、年金または一時金第1級〜第7級は年金で、給付基礎日額の313日分〜131日分。第8級〜第14級は一時金で、給付基礎日額の503日分〜56日分です。
遺族補償年金遺族の人数などに応じて、給付基礎日額の153日分〜245日分生計維持関係のある遺族の人数などによって変わります。
遺族補償一時金給付基礎日額の1,000日分遺族補償年金を受ける遺族がいない場合などに支給されます。
葬祭料・葬祭給付31万5,000円+給付基礎日額の30日分その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分が支給されます。

※補償額は、給付基礎日額や障害等級、遺族の状況によって変わります。とくに年金や一時金は条件によって差が出るため、正確な金額は制度ごとの支給要件を確認したうえで判断が必要です。 
※「給付基礎日額」とは、被災前3ヶ月間の総賃金額÷暦日数で算出する1日当たりの賃金額です。

アスベスト労災はどのように申請する?

アスベスト労災の申請では、病名の確認に加えて、就労歴や作業歴を整理することが重要です。必要書類が十分にそろっていない場合でも、手元の情報から相談を始めることが申請の第一歩になります。

労災申請の基本的な流れ

アスベストによる疾病について労災申請を考える場合、最初の窓口になるのは労働基準監督署になります。申請は、病名の確認から書類提出まで順に進みますが、重要なのは、病名だけでなく就労歴や作業歴もあわせて整理することです。

ただし、切断や破砕、劣化の進行した状態での不用意な作業は飛散リスクを高めるため、適切なメンテナンス計画を立てることが重要です。

①病名や診断内容を確認する

中皮腫、肺がん、石綿肺など、どの疾病に当たるのかを把握する。診断書や画像所見、紹介状などがあれば整理しておく。

②就労歴・作業歴を整理する

いつ、どの会社で、どの現場に入り、どのような作業に従事していたかを時系列で整理する。石綿ばく露のおそれがある工程も洗い出しておく。

③関係資料を集める

雇用関係がわかる書類、工事記録、給与明細、作業内容がわかる資料などを、手元にあるものから集める。不足があれば取り寄せられるか確認する。

④労働基準監督署へ相談する

資料が十分にそろっていなくても相談は可能。どの書類が必要か、どのように申請を進めるかを確認する。

⑤必要書類を提出し、調査・認定判断へ進む

病名だけでなく、業務によるアスベストばく露との関係も判断材料になる。追加資料の提出が必要になる場合もある。

【ポイント】

いきなり書類作成に入るのではなく、まず病名と就労歴を整理することが大切です。どの疾病に当てはまるのか、どの会社でどのような仕事をしていたのかが見えてくると、申請全体の進め方もつかみやすくなります。

また、本人申請だけでなく、死亡後に遺族が請求するケースもあります。その場合でも、出発点になるのは病名の確認と就労歴の整理です。

申請時に必要となる主な書類

労災申請では、疾病と仕事との関係を確認するために、医療資料や就労歴に関する資料が必要になります。主な書類は、次のとおりです。

  • 診断書や画像所見などの医療資料
  • 勤務先や雇用関係がわかる資料
  • 担当工事や作業内容がわかる資料
  • 遺族申請の場合は戸籍関係書類など
【ポイント】

最初からすべての資料がそろっていなければ申請できないわけではありません。アスベスト関連疾患は古い就労歴が関係することも多く、必要書類が一度にそろわないケースもあります。

まずは手元にある資料を集め、何が不足しているのかを整理することが大切です。不足している資料は、労働基準監督署などに相談しながら補っていくとよいでしょう。

勤務先が廃業している場合や資料が少ない場合はどう考える?

アスベスト関連疾患では、発症した時点で勤務先がすでに廃業していることがあります。何十年も前の現場が関係するケースでは、当時の書類が十分に残っていないことも少なくないでしょう。

しかし、会社がなくなっていることや資料が少ないことだけで、直ちに請求をあきらめる必要はありません。実際には、次のような情報が申請の手がかりになる場合があります。

  • 勤務先名
  • 働いていた時期
  • 担当していた工事や設備の種類
  • 同僚や関係者の証言
  • 当時の現場写真や記録

遺族が申請する場合は、本人から詳しい事情を確認できず、不安を感じやすいものです。それでも、断片的な情報を整理することで、相談や申請につながる可能性があります。

大切なのは、「資料が足りないから無理」と決めつけないことです。まずは、何がわかっていて、何が不足しているのかを切り分けたうえで、手元にある情報から整理を進めていきましょう。

アスベスト労災の時効は「2年」と「5年」|時効と関連制度の違いを整理

労災請求には「2年」または「5年」の時効がありますが、時効後でも請求できる救済制度や、建設従事者向けの特別な給付金制度が用意されています。

アスベスト労災で時効が問題になりやすい理由

アスベスト関連疾患は、吸引から発症までに10年〜50年という長い年月を要します。そのため、以下のような状況で時効が壁となるケースが目立ちます。

潜伏期間の影響:退職から数十年後に発症するため、当時の記録が散逸し、労災の手続きを検討している間に時効が迫る、あるいは過ぎてしまう。

遺族の把握遅れ:ご本人が亡くなった後に石綿が原因だと判明した場合、遺族補償給付の時効(死亡から5年)をすでに経過していることが多い。

起算点の複雑さ:給付の種類ごとに時効の起算点が異なります。

  • 療養補償給付・休業補償給付:治療・休業した日ごとに時効が進行(2年)
  • 障害補償給付:症状が固定(治癒)した日の翌日から5年
  • 遺族補償給付:労働者の死亡日の翌日から5年

過去にさかのぼっての一括請求は原則できないため、気づいた時点で速やかに請求することが重要です。

遺族が請求する場合に注意したい点

労災の遺族補償給付が時効(5年)で消滅してしまっていても、諦める必要はありません。

特別遺族給付金の活用:労災時効後に請求できる制度です。支給額は労災より低くなる場合がありますが、無補償になることを防ぐための重要なセーフティネットです。

子どもや配偶者の権利:ご遺族(配偶者や子ども、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹)が受給対象となりますが、請求期限は令和14年(2032年)3月27日までと定められているため注意が必要です。

建設アスベスト給付金・石綿健康被害救済制度との違い

労災以外にも、被害を受けた背景(職種や環境)によって、以下のような異なる救済制度が存在します。

制度名主な対象者制度の目的と主な特徴相談先
労災保険給付業務で石綿を吸い込んだ労働者・特別加入者業務上の石綿ばく露が認められた労働者や特別加入者に適用される、基本的な補償制度 治療費の全額補償や所得の約80%を補償する休業給付など、補償内容が最も手厚い。労働基準監督署
特別遺族給付金労災の遺族給付が時効(5年)で消滅した遺族労災の時効救済措置。労災保険からではなく、石綿救済法に基づき国から給付金が支払われる。
特別遺族年金(遺族1人の場合、年額240万円)または特別遺族一時金が支給される。
労働基準監督署
石綿健康被害救済制度労災の対象とならない方(自営業、近隣曝露、家族など)労働者でないため労災が使えない方のための社会的救済。療養手当や葬祭料が支給されるが、給付額は労災より低い。ERCA等
建設アスベスト給付金特定の建設業務に従事し、石綿被害を受けた方・遺族国家賠償訴訟の和解に基づく制度。労災認定がなくても請求できるが、事前に労災保険給付を受けていると審査が迅速になる場合がある。労災とは別制度として、最大1,300万円の給付金が支払われる。専用受付窓口

※各制度は並行して請求できる場合がありますが、同一の事由(病気や死亡)に対して重複して給付を受けることはできず、金額の調整が行われる点に注意が必要です。

アスベスト労災請求について、よくある質問(FAQ)

アスベスト労災請求では、申請期限や退職後の扱い、会社の廃業、補償額などで迷いやすいポイントがあります。ここでは、特に確認しておきたい内容を整理して解説します。

Q1.
アスベスト労災の申請に期限はありますか?

A.
労災保険給付には時効があります。主な目安として、療養補償給付や休業補償給付は2年、障害補償給付や遺族補償給付は5年です。給付の種類によって起算点も異なるため、「いつ発症したか」だけでなく、「どの給付を請求するのか」まで整理したうえで確認する必要があります。

時効が気になる場合は、自己判断であきらめず、早めに労働基準監督署などへ相談することが大切です。

Q2.
退職後でもアスベスト労災の申請はできますか?

A.
退職後でも申請できる場合があります。アスベスト関連疾患は発症までに長い期間を要することが多く、在職中ではなく退職後に中皮腫や肺がんなどが判明するケースも珍しくありません。

労災認定で重要になるのは、現在働いているかどうかではなく、過去にどのような仕事に従事し、どのようなアスベストばく露があったかです。そのため、退職後であっても、在職中の作業内容や勤務先、現場の状況を整理しておくことが重要になります。

Q3.
会社が倒産・廃業していても請求できますか?

A.
会社が倒産や廃業をしていても、直ちに請求できないと決まるわけではありません。アスベスト関連疾患では、発症時点で勤務先がすでになくなっていることもありますが、勤務先名や就労時期、担当していた工事内容、同僚の証言、当時の写真や記録などが申請の手がかりになることがあります。

必要書類が十分にそろっていなくても相談できるため、まずは何がわかっていて、何が不足しているのかを整理することが大切です。

Q4.
アスベスト労災の補償金額はいくらですか?

A.
補償金額は一律ではなく、受ける給付の種類や本人、遺族の状況によって変わります。たとえば、療養補償給付は必要な療養の給付または療養費の全額、休業補償給付は休業4日目から給付基礎日額の60%、さらに休業特別支給金20%が加わるため、合計では原則80%が目安です。

障害補償給付や遺族補償給付は、障害等級や遺族の人数などによって支給額が異なります。正確な金額は、給付基礎日額や支給要件を踏まえて確認する必要があります。

アスベスト事前調査でばく露リスクと労災を未然に防ぐ

アスベストによる健康被害は、労災や遺族補償、特別遺族給付金などの問題につながることがあり、発症後には制度の確認や手続きが大きな負担になる場合があります。とくにアスベスト関連疾患は潜伏期間が長く、退職後や会社の廃業後に問題が表面化することもあるため、制度の全体像を把握しておくことは大切です。

そのうえで最優先で取り組むべきなのは、発症後の対応ではなく、ばく露そのものを未然に防ぐことにあります。解体・改修工事の前に適切な事前調査を行い、石綿含有の有無や飛散リスクを把握しておけば、作業員の安全確保はもちろん、将来の健康被害や補償リスクの低減にもつながるでしょう。

労災リスクを未然に防ぐには、解体・改修工事前のアスベスト事前調査が法的にも義務付けられています(2022年4月施行の改正大気汚染防止法)。アルフレッドでは、以下の特長でアスベスト調査をサポートします。

  • 最短当日〜3営業日(土曜含む)以内での定性分析結果の提供
  • 行政向け報告書の作成まで一括対応
  • 調査費用を抑えたコストパフォーマンスの高いサービス設計

「どこに頼めばいいかわからない」「費用感を知りたい」という段階からご相談いただけます。まずはお気軽にお問い合わせください。

【参考文献】
厚生労働省:「石綿による疾病の労災認定」
厚生労働省:「特別遺族給付金」
厚生労働省:「建設アスベスト給付金制度について」
厚生労働省:「建設アスベスト給付金制度の概要」
厚生労働省:「石綿パンフレット等」
独立行政法人環境再生保全機構(ERCA):「石綿による健康被害の救済制度」

監修者:三井伸悟

1980年静岡県浜松市生まれ。2003年に東海大学海洋学部水産資源開発学科を卒業後、2004年に日本総研株式会社へ入社し、分析・環境分野でのキャリアをスタート。2011年には同社の原子力災害対策本部長に就任。その後、世界最大の分析会社グループEurofins傘下の日本法人にて要職を歴任。2017年にユーロフィン日本総研株式会社、2018年にはEurofins Food & Product Testingの代表取締役社長に就任。さらに、埼玉環境サービス株式会社取締役、ユーロフィン日本環境株式会社の東日本環境事業及び環境ラボ事業の部長も経験。2021年にアルフレッド株式会社を創業し、代表を務める。特定建築物石綿含有建材調査者、環境計量士(濃度)、作業環境測定士(第一種)、公害防止管理者(水質一種)の資格を保有し、20年以上にわたる環境・分析分野での豊富な実務経験と専門知識を活かし、持続可能な環境構築に貢献。

 
 
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